「しんちゃーん★」
休み時間。
楽しそうな声をあげて、俺のクラスにネネちゃんが来た。
今日は何だろう。
好奇心が強いこの子は俺の彼女。
顔が可愛くて評判だけど、性格が一筋縄じゃいかないのでも評判。
姫・小悪魔なんて良いほう。
女王様だの、ドSだのいろいろ言われます。
でもまあ、そんな一癖ある性格も、可愛い笑顔で帳消しになるとかならないとか。
そんな所がいい、なんていう奴もいまして。
得だよなーなんて思ってしまうこともある。
客観的に。冷静に。
「飴」と「鞭」がつまり、「顔」と「性格」なんだ。
だから癖になるんだ。
まあ、その姫を一番大切にしている俺が言うセリフではないけどね。
可愛くて可愛くて、仕方ない。
笑っているネネちゃんを見ると嬉しくなるし、怒っているネネちゃんを見るとほっとする。
離れることなんて考えたことがないくらいに、ずっと一緒だった。
だって物心ついた頃には、すでに隣にネネちゃんがいたんだから。
ネネちゃんがいない世界なんて考えられない。
自分で「飴」だの「鞭」だの理屈めいたことを言ったけど、結局は理屈じゃない。
「ネネちゃん」だから好きなんだ、一緒に居たいんだ。
「しんちゃん、見て見て!」
友達と話していたのを中断し、俺はそれを見た。
彼女の顔の横にある手には、一つの家とそれに続く山道が描いてある絵が握られていた。
「何これ。」
「あなたは頂上を目指して家を出ました。1時間後にどの場所にいると思いますか?その位置を描いてみてv」
「は?」
そう言って紙と、机の上に広がっていた俺のペンを渡された。
いつも唐突なんだから。
しょうがないなー、付き合ってあげますか。
「えっと?1時間?」
「うんv」
「1時間もあればこんな山道、楽々とてっぺんまで行けるでしょ。だからここ!
いや、むしろ俺ならもっと登れるぞ。」
と言って右上、紙の端である、山道の頂上に丸をつけた。
するとネネちゃんは目を丸くした後、嬉しそうに言うんだ。
「ここ?ここでいいのね?本当に??」
…何?なんかした?
「え、いいと思うけど…」
「ありがとう!」
ネネちゃんは紙を持って去って行った。
もうそれは、風のごとく。
「なんなの、あれ?」
俺はさっきまで話していた、隣にいる友達に聞いてみた。
「心理テストかなんかじゃねーの?」
「あれ。心理テストって、答えを聞いて初めて意味のあるものになるんじゃなかったっけ?」
「そのはずだけど。」
「え、俺答え聞いてないよね?」
***
「見て見てー!!」
自分のクラスに走って帰ったネネは、その心理テストを教えてくれた友達にしんちゃんの丸が描いてある紙を見せた。
最近、しんちゃんが本当にネネのことを好いてくれているのか、
友達ではなく、ちゃんと彼女として見られているのかがすごく不安になってしまっていた。
だって、他の男の子と喋っていてもヤキモチやいてくれないんだもん!
「縛られるよりいいでしょ。」
なんて言われたけど、なんか納得いかない。
他の男の子にネネを取られてもいいんじゃないのかな、なんて思ってしまう。
そんな相談を友達にしていたら、
「じゃあこれやってみる?」
って目の前に雑誌を出された。
その友達が偶々持っていた雑誌に載っていたのはカップルの為の心理テストだった。
「やる!」
迷いなんてなかった。
横長の紙に大きい山を描く(頂点が紙の真ん中に来るように)。
山のふもと、両端に家を一つずつ描く。
その紙を半分に折って、右側は彼女用、左側が彼氏用。
それがその心理テストだった。
質問はさっきしんちゃんに言ったとおり、1時間後に居るであろう場所にしるしをつける。
実はさっきしんちゃんに渡した紙を開くと、右側に左右対称の、ネネが既にしるしをつけた絵があったのだった。
ネネはこの坂道がなだらかになり始めた、頂点から少し離れているあともう少しの地点にしるしをつけた。
それを友達に見せる。
「これは2人の『本当の相性』を調べるテストです。しるしの高さはその人の恋愛に対する情熱を表します。
2人が同じくらいの高さに描いた場合は、行動ペースなども一致していて、
これからもいいスピードで愛が深まっていく組み合わせです。
高さに差がある場合、高い位置に描いた人の情熱ばかりが空回りしやすいので注意。
その場合高い位置に描いた人が、相手に合わせる努力をするといいでしょう。」
すると友達は雑誌の解説を読み上げた。
つまり、しんちゃんにも答えてもらわなければ意味がないのね。
カップル用だもん、当たり前よね。
紙を半分に折って、どきどきした。
しんちゃん、どこに描くかな。
「しんちゃんの教室行ってくるねー!」
そう言って出て行ったのは5分前のこと。
そして今、友達にしんちゃんが描いてくれたしるしを見せた。
「あー位置違うねー。残念、でもちょっとしたズレだから…」
「違うよ!この位置見てよ!!」
「だから、野原君は頂点で、ネネはそれより下の位置にしるしがあるじゃない。」
「そう!しんちゃん一番上に丸つけたの!」
「?」
「さっきの解説もう一回見てみてよ!このしるしの高さはその人の恋愛に対する情熱を表すんだよ!!」
ちょっと興奮しちゃった。
聞きに行く時、しんちゃんの答えを楽しみにしていたのはもちろんだけど、不安も少し、ほんのすこーしあった。
一番下に描かれたらどうしよう。
そうでなくても真ん中よりも下に描かれたら嫌だな、なんて。
だってしんちゃんの私を想う気持ちに不安があってこんなことしたわけだから。
なのに、一番上に描いてくれた。
それが嬉しくて嬉しくて、たまらなかった。
高さの違いなんてどうでもいい。
『むしろ俺ならもっと登れる』、なんて言ってくれて。
すごく嬉しかった。
実は答えを知ってて、ネネを喜ばそうとしてくれているんじゃないかと思うくらいのしんちゃんの言葉が本当に。
本当に嬉しかった。
それならネネがしんちゃんを追いかけるよ。
高みを目指して進むしんちゃんの、傍にいるのはネネだ。
この心理テスト、やって良かった。
ただのお遊びだけど、すごく心の支えになった。
ネネ、単純だからこうゆうのすぐ信じちゃうもん。
高ぶった気持ちの理由を話すと友達は頭を撫でて言ってくれた。
「お遊びなんかじゃないよ。この紙は、今の二人の気持ちが本当に表れたものだと思う。」
そう言って大切そうにその紙を折って、ネネに渡してくれた。
「この紙きれを大事に持ってても、お守りにしても、心の拠り所としてもいいのかな?」
ゆっくりと縦に首を動かして友達は言った。
「良かったね。野原君はネネが思ってたよりもずっと、ネネのこと想ってくれてるんだね。」
ちょっとうるうるしちゃった。
単純に嬉しかったんだ。
しんちゃんの想いも、友達の気持ちも。
帰り道。
忘れてるかなーなんて思ったりもしたんだけど、しっかり覚えてたみたい。
「さっきの休み時間のアレ。なんだったの?」
「ふふ。女の子の秘密v」
ネネの手帳の中に挟まったあの紙は、私の安心のあかし。
知りたかったの、貴方の気持ち。
この心理テストは実際にいつかのnon-noに載ってたもの。
いつのだかは忘れたけど。
「しるしの高さはその人の恋愛に対する情熱を表します。」の部分は捏造。
でも、そのあとの文章で言ってることを言い換えると、こうなるような気がして。
勝手に解釈したものを、明文化してしまいました。
絵がイメージしにくいって方は画像参照です。
実際に私がやって、しんちゃんと似たようなことを思いました。
「1時間あればこんな山登るどころか、向こう側まで行けちゃうよ!」
そこでつっこみ。
「向こう側って下り坂じゃん!下っちゃだめじゃん;」
しんちゃんには、より上を目指してもらうことにしました。
私が思うネネちゃんは、高校生では髪を降ろしてます。
中学生の時は二つ結び。
その方が高校生っぽくていいかなーなんて。
いやはやすいません。。