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「今何か言った?」
笑ってるけど怒ってる。ネネちゃんの得意技だ。
「うーん?だからー。最近のネネちゃんはケバケバしくなったよねー。
俺はもうちょっと自然体が良いと思…」
グイッ!俺のネクタイが勢いよく引っ張られ、顔をネネちゃんに近づけさせられた。
「ネ…ネネちゃん?ネクタイは引っ張るものじゃないって何回言えばわかっ…」
「じゃあ何?すっぴんで日々を過ごせってこと?!」
「中学の頃は毎日すっぴんだったでしょ?充分可愛かったぞ。
あれくらい清楚な方が俺は好みだぞ。」
…あ、れ?
反応が薄いな。責め立てられるの覚悟で言ったんだけどな。
あ。もしや、可愛いの褒めたから照れてるとか?
俯くネネちゃんの反応を待つ。顔をあげて?どんな表情をしているか教えて。
「分かった。別れたいのね?」
待っていたネネちゃんの言葉は冷たく響く、全く予想に反するものだった。
「え、何でそっちにもっていくのかなぁ;」
顔をあげたネネちゃんの目には涙がたまっていた。
「私はどーせ黒髪じゃないわよ!
それに、もとから化粧映えする顔だから少し手を加えただけでケバくなっちゃうんです!
そんなに清楚で可憐な女が良いならななこさんのところに行けばいいじゃない!!」
わ。ひさしぶりに聞いたぞ、その名前。
「私は風間君に優しーく慰めてもらうもん!!」
「な、何で今ななこお姉さんの名前が出てくるの;
それに何で俺が傍にいるのに風間君のところに行かなくちゃならないの?」
女慣れした風間君だってこんな可愛いネネちゃんに泣き付かれたら、
「介抱」くらいしてしまうだろう。
もちろんヒワイな意味で。
いや、慣れてるからこそ気の紛わせ方法としてその手段に踏み出す可能性が高い。
「だって…風間君はいつも、可愛いねって、ネネは頑張り屋さんだねって褒めてくれるの。
ネネの欲しい言葉はしんちゃんじゃない人がくれるんだもん…。」
「(か、風間君。よくもそんなこっぱずかしいこと…;)
ネネちゃん、少し落ち着こうか?」
キッと俺を睨むネネちゃんの目の涙は今にも零れ落ちそうで。
「落ち着いてるよ!しんちゃんはいつも初恋に縛られてばかりじゃない!
この長い髪は何で好きなの?清楚な顔は何で好きなのよ!!」
ぽたぽた。
ほら、落ちた。綺麗なネネちゃんの雫達。
頬を伝うその様は毎回目を奪われる。
毅然とした顔に似合わない涙の線。
「ネネちゃん、泣かないで…。」
俺のたった一言がここまで大ごとになるなんて思いもしなかった。
泣かせたかったわけじゃないんだけどな…。
掌を頬に当て、親指で涙をぬぐってやる。
本当はそのままの方が綺麗だから垂れ流しておきたいけど、
俺が拭わなきゃネネちゃんがごしごしって拭いちゃうから。
それならば俺が優しく拭ってあげた方がいいと思うから。
まぁその手は、拭った後に十中八九振り払われるけどね。
「やめて!泣いてなんかないんだから!」
パシ!
ほら。今回も振り払われた。
「…私、風間君と付き合う。
風間君の彼女になって、風間君のために綺麗になって、風間君に褒めてもらう!
しんちゃんはななこさんと不倫でもすればいいわ!!」
心臓が壊れたんじゃないかって思うくらいに胸が痛くなった。
ネネちゃんが俺の前からいなくなるなんて考えられなくて、
一瞬暗闇の中に独りぼっちになった錯覚に陥った。
ネネちゃんが言葉を紡ぎだすたびにその様子が嫌でも頭に浮かんできて、
そのたびに苦しくなった。
その間にネネちゃんは俺を突き飛ばして、一睨みしてから駆けて行った。
ぐらついた俺は、心と体をもちなおしてすぐに追いかけた。
細い腕を掴んで、他の誰かがこの手を取ることなんて許せるわけがないと思った。
「本当に行かないでよ!」
「だって、その方がお互い幸せでしょ?」
「お互い…?
何?ネネちゃんは風間君といる方が幸せなの?」
「だって…しんちゃんに似合う女の子になりたくて頑張って可愛くしてるのに…
しんちゃんは嫌なんでしょ?」
「え…何?俺のため??」
「そーよ!
そもそもしんちゃんがかっこ良くなっていくからいけないんじゃない!!」
はは。
なんだっけ、これ。あー、取り越し苦労ってやつだ。
「長い髪は、ネネちゃんの髪がすごく綺麗だから好きなんだぞ。
この栗色もネネちゃんにすごく似合ってて可愛いと思う。」
零れる涙をもう一度拭いながら答える。
「清楚な顔は、ネネちゃんがお化粧で可愛くなり過ぎてるから、
少し抑えてもいいんじゃないかなって意味だったんだぞ。
でも俺の為って聞いたら、今まで以上に可愛く見えてきたぞ!!」
「馬鹿…。」
そう言いながら微笑んだ。
…あれ、でもまた歪んだぞ?
「…う…うぇーん(泣)!」
張りつめていたものが緩んだのかな。
うんうん、俺も途中泣きたくなったもんなー。
ぽんぽん。
俺の胸で泣くネネちゃんの頭を安心させるために軽く叩く。
「それにしても聞き捨てならないなぁ。
風間君と付き合うだなんて。嘘でも言って欲しくなかったぞ。
俺の心臓止まりそうだったんだから。
…もう風間君のところに行くだなんて言わないでよ。」
少し顔をあげて上目づかいで俺を見てくる。
相変わらず可愛いなあ。
「…分からないわよ。またななこさんに現を抜かしてたら。」
いや、今回ななこお姉さんの名前を出したのはネネちゃんだからね?
俺はネネちゃんしか見てなかったからね?
いつだって可愛い君は、僕の自慢の彼女。
笑う君も。
怒る君も。
泣く君も。
すべてを愛するから。
だからねえ。
俺から離れるなんて言わないで。
「私には駆け込み寺がいっぱいあるって忘れないでよ?v」
はは。
泣きながら含み笑いでそんなこと言えるのなんてネネちゃんしかいないよね。
「うん、それは分かってる(…痛いほどにね;)。」
風間君、マサオ君、ボーちゃん、エトセトラ。
たとえ今はネネのことを狙っていなくても、本気で駆け込まれたら防衛隊の皆だってどんな行動に出るか分からない。
いや、むしろなにかも振り払ってしんのすけと敵対するかも?
駆け込み寺とか、そんなこと言ってる時点で自分が可愛いの分かってるんでしょうけど、それ以上に可愛くなりたいネネ嬢。
しんちゃんのかっこよさが掻き消されるくらいに。
そうすればしんちゃんの存在がかすんで、女の子皆を敵対視しなくて済むから。
でもそんなこと言いつつも、しんちゃんの人間性はネネを遥かに超越してしまうことくらいわかってる。
だから、本当は逆に、ネネの存在がかすまないように努力したいだけ。