臆病者と言って笑って -3-

僕たちにはわからない。

しんちゃんが何を思い、何に怯えているのかなんて。

 

 

 

「風間くーん、何か幸せな話してよー。

 僕、もう、心が傷だらけだよー。

 

学校に居ると切なさの応酬だった。

ネネちゃんの想いとしんちゃんの想い。

どちらの愛も深く深い。

 

ネネちゃんは僕を、しんちゃんはボーちゃんを相談相手としていた。

そして僕とボーちゃんは互いの最大の秘密を共有し、幼馴染の恋が実ればいいと願うのだった。

そしてその話を聞いてもらうべく、風間君も交えた3人でよく集まるようになった。

駅間のファーストフード店は僕らの溜まり場となった。

風間君は良いのか悪いのか、深い悩みを持っていない人だった。

こういう明け透けな人と話すと癒される。

それに、昔から頼れる存在である彼は、僕たちの背負っているものも一緒に背負ってくれる、そんな存在。

それがボーちゃんと僕の共通の意見だった。

 

「ネネちゃん、最近は全然笑わないんだ。

 しんちゃんに向けてだってどこか陰のある笑い方しかできなくなって。

 そんなネネちゃん、もう僕見てられないよ。」

「好きなのに気持ちを言わせてもらえないのは辛いよな。

 

僕にできることがあったら、なんだってしたい。

ネネちゃんに哀しい顔なんて似合わない。

風間君も話がわかったようで、納得した風に頷いてくれた。

 

「僕、しんちゃんが心配だよ。

 自分があんなに人のことを好きになったことがないから。

 しんちゃんの気持ち分かってあげたいのに、うまく言葉が返せないんだ。」

「年上と付き合いながら、本当の気持ちを押し留めているなんて普通じゃないんだ。

 そんなしんのすけの気持ちは僕でも分からないよ。」

 

ボーちゃんの言葉にもちゃんと言葉を返してくれる風間君。

僕とボーちゃんが二人で話していても、この途方もない悩みにため息しか出てこないから、

上手く受け答えてくれる風間君の存在に、僕たちは助けられていた。

 

「うん、そうだ。

 人それぞれ悩みはいろいろだし、考え方が違うもんな。

 うん。

 うん…。

 ゔ…。」

 

あれ?

風間君の雲行きが怪しい。

 

「…。あーっもう!

 イライラしてきたぞ!!

 何なんだよ、好き過ぎて付き合えないっていうしんのすけの思考は!

 どうなってんだ!?もっと物事を単純に考えられないのか!?

 

はい、きました。キレました。

風間君はうじうじ考えないのが長所でもあり、短所でもありました。

長所と短所は紙一重、なんて名言を残したのは誰なんだろう。

 

「つまりしんのすけの訳の分からない考え方のおかげで、ネネちゃんの想いは宙ぶらりんのままなんだろ?

 それじゃネネちゃんは苦しむだけじゃないか!

 はっきり断ってやればいいんだ!!

 しんのすけが苦しむのは勝手だけれど、せめてネネちゃんの気持ちに終わりを告げてやらないと報われないじゃないか!」

「「…。」」

 

あ、、あれ?

ボーちゃんと僕は風間君が何を言い始めたのか、瞬時には理解し得なかった。

だから、言葉が出てこなかった。

だって、何それ。

それじゃ、しんちゃんがネネちゃんのこと好きじゃない、みたいな言い方じゃないか。

え?あれ?もしかして…。

 

「そもそもしんのすけの好きな人って誰なんだ!?

 あいつから聞き出して、俺が白黒つけてやる!!」

「「…。」」

 

僕は開いた口がふさがらない。

ボーちゃんだって、驚いてる。 

僕たちの表情の異変に気付いたのか、風間君がやっとイライラを鎮めてくれた。

 

「ん?なんだよ二人とも。」

「ねえ、風間君。それ本気で言ってるの?

 ボーちゃんそろそろ僕、怒っていいかな?いいよね?」

「い、いや…; 待ってマサオ君!!

 ほら、風間君は学校での二人の姿を見てないし。

 僕らもはっきりと口に出してなかったかもしれないし。」

 

ね?落ち着いて;

と言いながら、僕を静止させるボーちゃん。

風間君は何のことかさっぱり、という様子だ。

 

「だって風間君が何も分かってなかったってことは、今までの3人での時間が全て無駄だったってことだろ?」

「マサオ君、さっきから何言ってるのか全く分からん。

 説明してくれ。」

 

それでもまだ、我が物顔で言葉を発する風間君。 

うん、分かってなかったんだ。

鈍感な彼には分からなかったんだ。

落ち着け僕。はい、深呼吸。

自分で自分を宥めて、話を続けた

 

「分かった。じゃあ学校のことは百歩譲って、置いておこう。

 でも5人で集まった時のことはわかるでしょ?

 ネネちゃんはいつも誰のことを見てる?」

「そりゃあ、いつもしんのすけに寄り添って、しんのすけにご執心だよな。」

「じゃあしんちゃんは?」

「え?しんのすけはいつもくっついてくるネネちゃんに優しくしてるな。

 笑いかけたり、頭をなでたり、手を握っ、た…り?え?あれ??;」

 

今まであの二人の姿に疑問を持たなかった風間君がすごい。

例え手を握るのが友達間であり得ることとして認識していたとしても、二人の纏う空気で否が応でも気付かされる。

 

「あれがただの幼馴染に対しての態度だと思ってる?」

「いや、でも…。」

「2人きりにしたら、目も当てられないくらいいちゃついてるの、風間君も見たことあるでしょ?

 しんちゃんがあんなに自然に甘甘になるの、きっとネネちゃんの前でだけだよ。」

「てことはつまり、しんのすけもネネちゃんのこと…?」

 

そう。

あの二人はなんだかんだ言いつつ、傍から見れば恋人同士じゃないことが不思議なくらい色んな意味で距離は近い。

当人同士は何もおかしいことはないと言い張るが、彼らのそれは明らかに普通じゃない。

友達としてするスキンシップの域を疾うに超えている。

ファミレスに行けば必ず隣の席。

歩く時は互いが自然に手を取り合う。

2人きりにすれば、見つめ合って髪やら肌やらを触りながら目で会話を始める。

それに、互いに傍にいるだけでとても優しい表情になるんだ。

 

しんちゃんに聞けば、「手なんて昔から繋いでたじゃん」などと言われ、

ネネちゃんに聞けば、「しんちゃんからすればあんなスキンシップ、なんてことないんでしょ?」と、日頃のしんちゃんの素行から、抵抗がなくなってるようだった。

だからと言って、「もうくっついちゃえよ」なんて単純な言葉では片付けられないからやっかいなのだ。

 

 

 

そして時間も時間だし、ということで僕たちは解散した。

風間君は最後まで「なんで好き合ってて付き合わないんだ?」と疑問だらけだったようだ。

きっとこの問題は、彼の恋愛に関するキャパシティーを軽く超えてしまったのだろう。

そんな風間君に丁寧に今の現状を説明するボーちゃん。

僕は呆れてしまって、その日の帰り道では口をはさまなかった。

風間君は勉強はできるけど、バカだってことがよくわかった。それだけで大収穫なんだ。

そう言い聞かせなければいくら僕でもまた怒鳴ってしまいそうだった。

 

 

帰宅して、お風呂に入り、湯船に浸かりながらまたしんちゃん達のことを考えてしまった。

それにしても、しんちゃんがネネちゃんに他の男を薦めたなんて信じられなかった。

だって今までは、互いに恋人ができようと、付かず離れずの関係を保っていたから。

しんちゃんが一歩踏み出したということは、その分しんちゃんが自分の気持ちを少し抑えられるようになったと、

しんちゃんの言う「大人」に近づいたと、そういう事なのだろう。

自分で自分の傷をえぐるようなことしなければいいのに。

 

それでも昨日そんなことを言われた、今日のネネちゃんの目は腫れてなかったいなかった。

そういえば「少し良いことを知れた」と言ってもいたな。

きっとしんちゃんの一途な想いを知れて良かった、ということなのだろう。

ただフラフラしてるだけじゃないと知れて、良かったと思ったのだろう。

 

 

 

ネネちゃんは目の前にしんちゃんがいる限り、離れられる訳ない。

それにそんなことを言うしんちゃんだって、実際まだまだ大人になんてなりきれてない。

本当にネネちゃんが好きな人を他に作ってしまったら、普通じゃいられないに決まってる。

そう、しんちゃんの唯一の相談相手であるボーちゃんが言っていた。

 

 

 

こんな風に僕たちはたくさん相談される。

それが重荷だと、そう言いたい訳ではないんだ。

誰かに話すことで少しでも気持ちが和らぐのなら、いくらでも聞いてあげたいと、ボーちゃんも僕も心から思ってる。

問題はその、僕たちにある。

相談される度に、聞くことしかできない自分自身に嫌気がさしてくる。

目の前の大切な大切な友達が、こんなに悩んでいるのに腕をこまねくことしかできないことで、自己嫌悪に陥る。

そんなことを別れ際に風間君に言ったら、思いもよらぬ答えが返ってきた。

 

「そんなに思い悩むなよ、2人とも。

 それだけ毎日毎日嫌な顔せず話を聞いてくれる友達なんてそうそういないぞ?

 答えを探すのなんて、結局は当人がすることさ。

 周りが答えを示唆こそすれ、明示なんかして、その通りにすることなんてあっちゃいけない。

 でも、その答えにたどり着くまでに一緒に悩んでくれる相手がいることは、精神的にとてつもなく大きな助けになる。

 一人じゃないって思えるからな。

 それだけで、あいつらは充分救われてるよ。」

 

だって。

今まで何一つ理解していなかった風間君に言われて救われたなんて、なんか悔しいけど。

でもやっぱり、うじうじと考えずに、僕たちに明かりを照らしてくれるのは風間君だった。

そんな、当然のことのように言い張るけどさ、風間君。

その言葉こそが僕たちに希望を見出させてくれる。

すごく大切な言葉になるって、僕は思うんだ。

今日やっとこの現状を把握した風間君に言われるのは、やっぱり癪だけど!

 

 

 

 

でも。うん。

ああ、良かった。

僕たちは救い救われ生きている。

あの頃と同じ、誰一人欠けることなく。

 

 

 

 

 

「ああ。」

この風呂場で響く、この声に、明日は何という言の葉を乗せて彼女の恋を応援しようか。

お風呂に入りながら考えていたんだけど、なんて切り出したらきっと、

「湯船で考え事だなんて、少女漫画のヒロインみたいよ!」なんて馬鹿にされてしまいそうだ。

一日でも早く彼女に笑顔が戻るといい。

そう思いながら、僕は浴槽を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

えっと。。

始めた当初から幾分か時間が過ぎてしまい、自分自身どんな設定なのか、忘れてしまいました。

何か矛盾があるやもしれません。

説明不足かもしれません。

何かお気づきの点があれば、ご指摘いただけるとありがたいです。

 

結局これ、次回で終わるのでしょうか。

甚だ疑問です。w

 

自分でもわけが分からないまま書いてます。