買い物帰りの寄り道は、貴方の家に。

「来週は一週間もお休みいただいちゃったの。」

 

そんな話をしたら、

 

「…じゃあウチに泊まりに来るか?」

 

と銀さんが言った。

付き合ってまだ間もないのに何を言い出すのかと、普段なら笑顔で制裁を喰らわすところだった。

しかし、その日は四月一日。

私の発言だって、ちょっとした嘘だった。

働き頭である私が一週間も休んでしまったら、志村家は今度こそ潰れてしまう。

休みはいつも通り、水曜日だけ。

 

「ええ、じゃあ来週の水曜日にお邪魔するわ。

 その時は神楽ちゃんはウチに泊まりに来てもらいましょうね。」

 

銀さんの発言に動じずに、私も嘘で返した。

ここでうろたえたら、『まだまだガキだな』なんて馬鹿にされるのが関の山。

だから私は平然を装って言った。

そうしたら銀さんが驚いた顔をした。

やった!

私の方が一枚上手だったみたいね。

 

その後は『銀さんの家に泊まる』という架空の話の計画を立てて、私は仕事に向かった。

だからその話の間、銀さんの様子が少し変だったことなんてすぐに忘れてしまったのだ。

勿論私の頭の中も、『銀さんを騙せた』ということばかりが占めて、話の内容なんて瞬時に忘れ去られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして一週間後の水曜日の夕刻。

洗濯物を畳んでいると、

 

「姉御ー!久し振りアルー!!」

 

可愛い可愛い妹分の声が聞こえた。

あら、こんな時間に遊びに来たのかしら。

いつもならもっと早い時間に遊びに来るのに。

と、考えあぐねいでいると、

 

「姉上、ただいま帰りました。」

 

いつもながら、礼儀の正しい新ちゃんの声が聞こえた。

 

「おーい。肉買ってきたぞー。」

 

銀さんの気の抜けた声まで聞こえてきた。

一緒に夕飯を食べる約束でもしていたかしら、と思いつつも玄関に向かう。

 

「おかえりなさい新ちゃん。

 久しぶりね、神楽ちゃん。

 あら、今日はお泊まりセットを持ってきてるのかしら。」

「そうアル!今日は姉御が休みだから泊って行ってもいいって言ってたって、銀ちゃんから聞いたネ!!」

 

神楽ちゃんの背中の荷物は、いつも志村邸に泊まりに来る時に持ってくる荷物だった。

勿論神楽ちゃんなら、いつだって大歓迎なのだが、そんなことを約束した記憶がなかった。

小首を傾げると、銀さんが焦ったように喋り出した。

 

「いやいや、俺聞いたからね!

 先週万事屋に来た時、確かにお妙が言ったんだからね!!

 なかったことにするなんて銀さん許しません!!!!!!」

 

先週…。

そう言われてやっと思い出した。

エイプリルフールのことを。

え、あれ本気にしてるのかしら。

え。

だって。

私、何を言ったっけ?

 

「姉御?」

「ううん、何でもないの。上がって、神楽ちゃん。」

「うん!新八ィ、夕飯の支度手伝ってあげるアルー!」

「えぇーいいよー。どうせ味見だのなんだの言って、つまみ食いするのが目的でしょう?」

「失礼ネ!味見は大切アルよ!」

 

台所に向かう新ちゃんと神楽ちゃんの声は遠ざかっていった。

銀さんはというと、今やっとブーツを脱ぎ終えたところだった。

 

「何。今更動揺してんの?

 先週は俺がびっくりするくらい緻密な計画を立ててたのに。

 何だっけ?神楽が寝てから俺の家に来てくれるんだっけ?」

 

にたーっといやらしく笑う目の前の侍をどうしてくれようか。

 

「銀さん、エイプリルフールってご存知?」

「あぁ?知ってるよそんくらい。銀さんを馬鹿にしてんのかコノヤロー。」

「じゃあ、先週その話をしたのが、エイプリルフールだってこともお気づきですよね?」

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「銀ちゃんどうしたアルかー?」

「そうですよ。折角買ってきたお肉が、神楽ちゃんに全部食べられちゃいますよ?」

 

今日の夕食は、銀さんが買ってきてくれたお肉が主役のすき焼きだった。

なのに銀さんの箸は一向に進まない。

ずっとため息ばかりだった。

 

 

 

「準備は僕と神楽ちゃんがしたので、片付けは姉上と銀さんでお願いしますね」

 

と言って新ちゃんは、お風呂を沸かしに行った。

神楽ちゃんは居間でテレビを見ている。

私たちは台所に並んで、洗い物をした。

 

「はぁー。」

「ため息ばかり吐いてると、幸せが逃げていきますよ。」

「おぉ。もうすでに逃げてらぁ。さっきまでの浮かれた大人の幸せを返してくれよ。」

「そんなに楽しみにしていたんですか?いやらしい。」

「どーせ二十代後半の大人の男の余裕なんてありませんー。

 いつまでたっても少年の心を忘れられないんだよ。」

「それは少年の心ではなく、思春期男子の性欲から成長してないのでしょう?中二病ですか?」

「マダオですいませんねー。」

 

あまりの落胆ぶりで。

なんだか可愛くて、同時に少し可哀想になって。

しょうがないわね、という気持ちになってしまったのだ。

これじゃあどっちが年上か分からない。

 

「じゃあ銀さん、ダッツを2つ買ってくれるのなら、ついでに泊まりに行ってあげるわ。」

「…もう騙されませんー。」

「あら、エイプリルフールはもうとっくに終わったわよ。」

「…マジでか。」

「えぇ。神楽ちゃんと新ちゃんが寝たら、ダッツを買いに行きましょうね。」

 

 

買い物帰りの寄り道は、貴方の家に。

 

 

「なんだよこれ、ダッツじゃねーじゃねぇか。」

「ドルチェって言って、ダッツの中でもさらに高級品なんですよ。」

「ちょ、おい、待てよ。銀さん普通のダッツでもカツカツな…」

「じゃあ志村家に帰りましょうか。」

「支払わせていただきます。」

 

安いものでしょう?

私のすべてをささげるのだから。

 

 

 

 

 

初銀妙です。

しかも今更ながらのエイプリルフールネタです。(現在4月13日)

もうどこでも見かけるような、ありふれたネタで申し訳ないです。

時間ないながらに、書いてみたくなって書きました。

今度はちゃんと書きたいです。

はい。