ネネね、知ってるの。
既にななこおねえさんは白いドレスを纏った後なのに、しんちゃんはななこさんのこと忘れられていないって。
私よりも高い位置で空を見上げるしんちゃんの眩しさったらない。
しんちゃんが誰を思っているのかがすぐに分かってしまう悔しさったらない。
こっち見てよ。
誰のせいで授業さぼっちゃったと思ってるのよ。
昼休み。 廊下を歩いていたら、しんちゃんが一人で屋上に居るのを見つけた。 学校内でしんちゃんが一人でいることはとても珍しかった。 だから少し心配になった。 ネネは寒いのがとても苦手だから、コートを羽織ってから屋上に通ずるドアを開けた。 そこには心細げな後姿のしんちゃんがいた。 しんちゃんがこんな風になる心当たりはあった。 だから何も言わずに隣に並んで、手を繋いだ。 ネネの存在に気付いたしんちゃんは瞬間驚いた顔をしたけど、ネネが笑顔で返すと、しんちゃんも普段は見せない安心したような微笑を見せて、前に向きなおった。 心細い時って、人の温もりがとても温かく感じるものだもん。 そうしたら、お昼休みを終えるチャイムが鳴っても離してもらえなかった。 ネネから「教室に帰ろう」だなんて言い出せなかったし、授業を一度くらいさぼっても支障はなかった。 手を差し伸べたのはネネだ。 だったらしんちゃんの気が済むまで付き合ってあげようと思った。 だって。
捨てられた子どもみたいな目をしたあなたを置いてはいけなかった。
少しでも私の温もりを求めてくれているのなら、枯れ果ててでも与えてあげたいと思った。
ネネにしか見せないしんちゃんのその顔。 何にだって付き合うから。 ネネ以外の人にこんなことしないでね。 これがネネの存在意義だって誇って言える。
外の風はもう冷たくて。
コートを着ていないしんちゃんの手も冷たくなって。
鼻は真っ赤で。
コートを着ている私でさえも左手の温もりだけを頼りにしている。
ふとしんちゃんを見ると、目が合った。
ふ、と笑う。
「綺麗な細ももがブツブツだらけだぞー。寒いんでしょ?」
ええ、勿論寒いわよ。
そりゃあ鳥肌だって立つわよ。
いくら愛があったって、正直寒さには勝てそうにないんだけど。
「抱きしめていい?あったまるぞー。」
「いいわよ。」
私の答えは始めから受け入れる言葉しか用意されていないから。
太ももはいくら細くたって太ももなのよ、と言っても直さない。
ちっちゃい頃からそうだったよね。
しんちゃんの言葉の間違えは、いくら指摘したって直らなかった。
でも『細もも』は嬉しいから直らなくてもいいかな、なんて思っていたりもするんだけど。
後ろからぎゅって抱きしめられる。
普通の友達ならしないことだけど、私たちは特別。
今更躊躇うことなんてない。
寂しがりやなしんちゃんを慰めるには人肌が一番だって、いつの頃からかインプットされている。
しんちゃんを支えることができる上に、私も幸せで包まれる。
こんな画期的な方法なんてない。
首に巻きつけられたしんちゃんの両腕に、私も手を添える。
目を閉じる。
私の一番の至福の時間。
するとしんちゃんが言う。
「ネネちゃーん、いくら温まるからって誰でも彼でもこんなことさせちゃだめだぞ?」
「わかってるわよ。私を何だと思ってるの?」
「いや、だってさ。あまりにも自然だったから。大切なことだって分かってればいーんだ。」
…いまさら何を言うかと思えば。
その言葉はどこまで汲み取っていいの?
表面だけ?
その大切さを教えたかった、という表面の意味だけ?
それとも。
そんな大切なことを今あなたがしている、という気持ちまで?
核心を突く勇気なんてまだない。
傷心のしんちゃんに付け入ろうなんて狡い考えも持ち合わせていない。
でも私のことを考える余裕ができたなら、気付いてほしい。
ネネがそんな大切なことを許すのは、しんちゃんにだけなんだよ?
おまけ
「寒いね、中に入ろっか。」
「…うん。」
背中の温もりを失うと、途端に切なくなる。
寂しがりなのは、ネネも同じなのかもしれない。
「?ネネちゃん?」
「授業が終わるまで、お話して時間潰そうね。それまで手を繋いでてもいい?」
「おう、いいぞ。」
屋上のドアの前の踊り場で。
手を繋いで。
この他愛もない時間が、今のネネには宝物。
気がつけば、季節は変わり、春を迎えましたね。
携帯の中に眠っていたSSです。
作成日が12月になってる。。
季節外れですが、ななこ←しん←ネネも好きなので、うp★