いつものように手を繋ごうとして振り払われた。
びっくりしたけど、もう一度繋いでみた。手を振っただけじゃ振り払えないくらいに適度に力を込めて。
そうしたら今度は両手を使って振り払われた。
拒否されたのは初めてで、何か怒ってるのかと思った。
しかし、聞いてみても違うと言われる。
俺の右手は寂しくて、悲鳴をあげてる。
焼肉屋についてネネちゃんを呼び寄せても、また拒否されてしまった。
明らかにおかしい態度に戸惑いを覚える。
俺の心は締め付けられるように苦しくなる。
いつも呼んだら笑顔で来てくれたでしょ?
手を握ることなんて当たり前にしていたことでしょ?
それを何で今更否定するの?
聞きたいことは山ほどある。
せっかく大好きな焼肉なのに箸が進まない。
原因は大好きな笑顔が自分の隣に無いこと。テーブルの向こう側にあるということ。
大好きな子の体温を感じられていないということ。手を伸ばして届く距離に無いということ。
駅について、このまま帰られては困ると思ってネネちゃんの手首を掴んだ。
そのまま二人きりになるために無理矢理3人から離れようと思ったら、3人が先に帰ってくれた。
後から携帯を見たらボーちゃんからメールが入っていて、それが風間君の計らいだと教えてくれた。
風間君も気が利くようになったんだなー、と変に感心してしまった。
ネネちゃんを学校の近くの公園に連れて行った。
俺が先にベンチに座ったら、あからさまに距離を取って座られた。
苛ついたので、距離を縮めて座り直した。
「何で無視するの?俺のこと嫌いになったの?」
「ち、がう。無視なんかしてないもん。」
「それは嘘。俺の話なんて一切聞いてくれなかったじゃん。ネネちゃん、俺の顔見て。」
「やだ、怖いもん。」
「ネネちゃんがちゃんと答えてくれればいいんだぞ。何を怒ってるの?」
「怒ってないもん。」
「じゃあ何がしたいの?何の為に俺を苦しめたいの?」
「…苦しいの?」
やっとこっちを向いた。
「それは友達から無視されたから苦しいの?それともネネだから苦しいの?」
「勿論ネネちゃんだからだぞ。」
「ネネは…ネネはしんちゃんの何なの?」
「何って…。それは幼なじみで…。」
「じゃあ本当に好きな人見つけてもいい?」
「う、ん。そうした方がいいと思うぞ。」
「ネネすごく一途だから、本当に好きな人見つけたら、絶対他の男と手は繋がないし、触らせないよ?
それがいくら10年以上の付き合いがある友達でも。
今日みたいなことが日常茶飯事で起こるのよ?それでもいい?
ネネが他に好きな人を見つけるってそういうことだよ?その度にしんちゃんはこうやって怒るの?」
「何?もう好きな人見つけたの?」
「…うん。友達に紹介してもらった。すごく優しくて素敵な人だよ。しんちゃんの言うとおり、ちゃんと好きな人を見つけたの。」
「誰?俺の知ってる奴?いくつ?俺よりいい男?」
「え…?えっと、しんちゃんの知らない人だよ。…25歳のサラリーマン。」
「俺よりいい男?俺とそいつとどっちが好き?」
「え、」
「どこの会社?どこまでやった?」
「や、」
「次いつ会うの?信用できる奴なの?」
「しんちゃん!」
気付いたら肩を竦ませて、俺に両手首をつかまれている彼女がいた。
「ごめん。手、痛かった?怖かった?ごめん、ごめん…。」
「ううん、私こそごめん。」
「ネネちゃんは謝ることなんてないぞ。良かったじゃん、好きな人ができて。今度俺にも会わせてよ。」
「ううん、ごめん。全部嘘なの。好きな人なんてできてない。」
「…は?嘘?」
「うん。ごめんなさい。しんちゃん?」
「そっ、か、嘘か。」
「しんちゃん、好き。」
嘘だと分かって、ほっとした瞬間だった。
いつも逃げていた言葉が発せられた。
「好きだよ、しんちゃん。ネネ、しんちゃんのこと怖いなんて思わないから。
しんちゃんの愛情ならどんなものでも受け止めるから。だからネネを受け入れて。
しんちゃんならネネの事好きにしていいから。束縛したって、突き放したってネネにはしんちゃんだけだよ。
しんちゃんだけだもん…。好きだよぉ。」
ネネちゃんは俺の胸の中でそう言った。細い腕は俺の背中に巻きついている。
はあ、だから今までその言葉を聞くまいと妨害してきたのに。
ネネちゃんの口から好きだなんて言われたら、そんな嬉しいこと言われたら無視なんてできるわけなかった。
もう後戻りはできなくなってしまったと、天を仰いだ。
ああ、今日の満月はオレンジ色だなーなんて一瞬の現実逃避。
一歩踏み出してしまった。今まで隠してきた俺の気持ちだって、聡いネネちゃんにはばれてしまっただろう。これは俺の失態。
「ネネちゃん、俺この間言ったこと嘘じゃないぞ?本気でめちゃくちゃにしちゃうぞ?
天も地も分からないほどに、どん底に落ちちゃうかもしれないぞ?」
「うん、いいの。しんちゃんがいるだけでネネは幸せになれる。」
「今まで他の男が触れてきた何倍もネネちゃんに触れるぞ?」
「うん…。って言ってもネネそんなに触れられてきてないけど、いい?大丈夫?」
「は?」
「ネネ、まだ清い体だよ?純潔守ってきたよ?」
「え、嘘だろ?今まで何人と付き合ってきたの?…しかも年上ばっかりとでしょ?」
「何人…?数えてないから分からないけど十人は居ると思う。あ、勿論キスはしたけどね。」
は。
よくそれで付き合ってこれたね。
何それ、それでも付き合ってこれたのはネネちゃんの魅力のおかげですか?
大人の男は思春期のガキみたく盛らないのか?
それとも、そのおかげで毎回長く続かないの?
女子高生だから処女を大事にしてても許されるのか?
なんだか。
予想外すぎて、信じられなかったけど、沸々と嬉しさが込み上げてきた。
「ネネ偉い?おりこう?」
「うん…。うん。偉い。お利口。…ありがとう。」
ぎゅっと抱きしめた。
力の加減なんてできなかった。
「じゃあご褒美にちゅーして。」
うん。
と言いかけてやめた。
だめだ、今の俺じゃまだ歯止めが利きそうもない。
しかもそんな話をされた後だ。
もう少し時間が欲しかった。
「ごめんネネちゃん。あと一か月俺に時間を頂戴?
もう少し大人になってから、俺から告白し直すから。」
すると頬を膨らまして、ベンチから立ち上がって少し離れたところから彼女は叫んだ。
「しんちゃんの臆病者ー!ネネを見くびるなー!!」
怒っているようで、でもよく見ると笑っているようで。
いつも通りのネネちゃんだった。
慌てて追いかけて、いつものようにネネちゃんの手を取った。
よかった、今回は振り払われなかった。
臆病者と言って笑って。
君の事が好きな分だけ、俺は格好悪くなる。
手を繋いで帰る帰り道。
後ろを振り返ると忘れ去られた、飲みかけのカフェラテとコーヒーの缶が仲良く倒れて地面に水分を染み込ませていた。
side S
結局ハッピーエンドにしてしまいました。
いやーもう矛盾だらけでしょうが、とりあえず完結です。
はい。
会話文ばかりで、背景描写や心理描写が少ない。文章能力のなさに反省するばかりです。