臆病者と言って笑って -4- sideS

いつものように手を繋ごうとして振り払われた。

びっくりしたけど、もう一度繋いでみた。手を振っただけじゃ振り払えないくらいに適度に力を込めて。

そうしたら今度は両手を使って振り払われた。

拒否されたのは初めてで、何か怒ってるのかと思った。

しかし、聞いてみても違うと言われる。

俺の右手は寂しくて、悲鳴をあげてる。

 

 

焼肉屋についてネネちゃんを呼び寄せても、また拒否されてしまった。

明らかにおかしい態度に戸惑いを覚える。

俺の心は締め付けられるように苦しくなる。

いつも呼んだら笑顔で来てくれたでしょ?

手を握ることなんて当たり前にしていたことでしょ?

それを何で今更否定するの?

聞きたいことは山ほどある。

 

 

せっかく大好きな焼肉なのに箸が進まない。

原因は大好きな笑顔が自分の隣に無いこと。テーブルの向こう側にあるということ。

大好きな子の体温を感じられていないということ。手を伸ばして届く距離に無いということ。

 

 

駅について、このまま帰られては困ると思ってネネちゃんの手首を掴んだ。

そのまま二人きりになるために無理矢理3人から離れようと思ったら、3人が先に帰ってくれた。

後から携帯を見たらボーちゃんからメールが入っていて、それが風間君の計らいだと教えてくれた。

風間君も気が利くようになったんだなー、と変に感心してしまった。

 

 

ネネちゃんを学校の近くの公園に連れて行った。

俺が先にベンチに座ったら、あからさまに距離を取って座られた。

苛ついたので、距離を縮めて座り直した。

 

「何で無視するの?俺のこと嫌いになったの?」

「ち、がう。無視なんかしてないもん。」

「それは嘘。俺の話なんて一切聞いてくれなかったじゃん。ネネちゃん、俺の顔見て。」

「やだ、怖いもん。」

「ネネちゃんがちゃんと答えてくれればいいんだぞ。何を怒ってるの?」

「怒ってないもん。」

「じゃあ何がしたいの?何の為に俺を苦しめたいの?」

「…苦しいの?」

 

やっとこっちを向いた。

 

「それは友達から無視されたから苦しいの?それともネネだから苦しいの?」

「勿論ネネちゃんだからだぞ。」

「ネネは…ネネはしんちゃんの何なの?」

「何って…。それは幼なじみで…。」

「じゃあ本当に好きな人見つけてもいい?」

「う、ん。そうした方がいいと思うぞ。」

「ネネすごく一途だから、本当に好きな人見つけたら、絶対他の男と手は繋がないし、触らせないよ?

 それがいくら10年以上の付き合いがある友達でも。

 今日みたいなことが日常茶飯事で起こるのよ?それでもいい?

 ネネが他に好きな人を見つけるってそういうことだよ?その度にしんちゃんはこうやって怒るの?」

「何?もう好きな人見つけたの?」

「…うん。友達に紹介してもらった。すごく優しくて素敵な人だよ。しんちゃんの言うとおり、ちゃんと好きな人を見つけたの

「誰?俺の知ってる奴?いくつ?俺よりいい男?」

「え…?えっと、しんちゃんの知らない人だよ。…25歳のサラリーマン。」

「俺よりいい男?俺とそいつとどっちが好き?」

「え、」

「どこの会社?どこまでやった?」

「や、」

「次いつ会うの?信用できる奴なの?」

「しんちゃん!」

 

気付いたら肩を竦ませて、俺に両手首をつかまれている彼女がいた。

 

「ごめん。手、痛かった?怖かった?ごめん、ごめん…。」

「ううん、私こそごめん。」

「ネネちゃんは謝ることなんてないぞ。良かったじゃん、好きな人ができて。今度俺にも会わせてよ。」

「ううん、ごめん。全部嘘なの。好きな人なんてできてない。」

「…は?嘘?」

「うん。ごめんなさい。しんちゃん?」

「そっ、か、嘘か。」

「しんちゃん、好き。」

 

嘘だと分かって、ほっとした瞬間だった。

いつも逃げていた言葉が発せられた。

 

「好きだよ、しんちゃん。ネネ、しんちゃんのこと怖いなんて思わないから。

 しんちゃんの愛情ならどんなものでも受け止めるから。だからネネを受け入れて。

 しんちゃんならネネの事好きにしていいから。束縛したって、突き放したってネネにはしんちゃんだけだよ。

 しんちゃんだけだもん…。好きだよぉ。」

 

ネネちゃんは俺の胸の中でそう言った。細い腕は俺の背中に巻きついている。

はあ、だから今までその言葉を聞くまいと妨害してきたのに。

ネネちゃんの口から好きだなんて言われたら、そんな嬉しいこと言われたら無視なんてできるわけなかった。

もう後戻りはできなくなってしまったと、天を仰いだ。

ああ、今日の満月はオレンジ色だなーなんて一瞬の現実逃避。

一歩踏み出してしまった。今まで隠してきた俺の気持ちだって、聡いネネちゃんにはばれてしまっただろう。これは俺の失態。

 

「ネネちゃん、俺この間言ったこと嘘じゃないぞ?本気でめちゃくちゃにしちゃうぞ?

 天も地も分からないほどに、どん底に落ちちゃうかもしれないぞ?」

「うん、いいの。しんちゃんがいるだけでネネは幸せになれる。」

「今まで他の男が触れてきた何倍もネネちゃんに触れるぞ?」

「うん…。って言ってもネネそんなに触れられてきてないけど、いい?大丈夫?」

「は?」

「ネネ、まだ清い体だよ?純潔守ってきたよ?」

「え、嘘だろ?今まで何人と付き合ってきたの?…しかも年上ばっかりとでしょ?」

「何人…?数えてないから分からないけど十人は居ると思う。あ、勿論キスはしたけどね。」

 

は。

よくそれで付き合ってこれたね。

何それ、それでも付き合ってこれたのはネネちゃんの魅力のおかげですか?

大人の男は思春期のガキみたく盛らないのか?

それとも、そのおかげで毎回長く続かないの?

女子高生だから処女を大事にしてても許されるのか?

 

 

なんだか。

予想外すぎて、信じられなかったけど、沸々と嬉しさが込み上げてきた。

 

「ネネ偉い?おりこう?」

「うん…。うん。偉い。お利口。…ありがとう。」

 

ぎゅっと抱きしめた。

力の加減なんてできなかった。

 

「じゃあご褒美にちゅーして。」

 

うん。

と言いかけてやめた。

だめだ、今の俺じゃまだ歯止めが利きそうもない。

しかもそんな話をされた後だ。

もう少し時間が欲しかった。

 

「ごめんネネちゃん。あと一か月俺に時間を頂戴?

 もう少し大人になってから、俺から告白し直すから。」

 

すると頬を膨らまして、ベンチから立ち上がって少し離れたところから彼女は叫んだ。

 

「しんちゃんの臆病者ー!ネネを見くびるなー!!」

 

怒っているようで、でもよく見ると笑っているようで。

いつも通りのネネちゃんだった。

慌てて追いかけて、いつものようにネネちゃんの手を取った。

よかった、今回は振り払われなかった。

 

 

臆病者と言って笑って

君の事が好きな分だけ、俺は格好悪くなる。

 

 

 

手を繋いで帰る帰り道。

後ろを振り返ると忘れ去られた、飲みかけのカフェラテとコーヒーの缶が仲良く倒れて地面に水分を染み込ませていた。

 

side S

 

 

結局ハッピーエンドにしてしまいました。

いやーもう矛盾だらけでしょうが、とりあえず完結です。

はい。

会話文ばかりで、背景描写や心理描写が少ない。文章能力のなさに反省するばかりです。