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信じていた日々と幸せ

 

 

 

志村家の縁側。

初夏の心地良い風が吹く中、並ぶ二人の男女がいる。

女は茶を啜り、男はどら焼き片手に空を仰ぐ。

その二人が恋仲だったらどんなにいいか。

そんなことを望んでいるのは俺だけだって知ってる。

なのに願わずにはいられなかった。

 

「なー、お妙。」

「なんですか、銀さん?」

「お前今幸せ?」

「なんですか突然。」

 

ふふ、なんて笑うお妙の頭では、簪についた白い玉達が揺らめいていた。

ピンクの花に白い玉の飾り。

お妙によく似合っていた。

 

「ええ、幸せですよ。」

「…その簪のおかげか?」

「あら、この簪が頂き物だってご存知でしたの?」

「いやーちょうどそれを買ってる多串君と会っちゃってね。」

 

パチンコに行った帰り道、たまたま通りかかった店で出会ったあの男。

いつもの堅っ苦しい真っ黒な隊服なんかじゃなく、普通の袴姿のアイツに。

関わり合いたくなんてなかったから話しかけなかったが、何の気はなしに奴の手元を見た。

すると、一目でお妙を思い出させるような色合いの簪を持っていた。

そうだ、奴はもう何の理由もなくお妙に贈り物をしても、喜んでもらえる立ち位置に居るのだった。

そんなことをまざまざと思い知らさた俺は、嫌味を言ってその場を凌ぐしかできなかった。

 

多串君とお妙が恋人同士だって知ったのはいつのことだったか。

きっとあれだ、神楽が言ってきたんだ。

『姉御がマヨとくっついちゃったヨ!取り返さなくていいアルか、銀ちゃん!!』

何を言っているんだ、こいつは。

なんで俺が取り返さなくちゃいけねーんだよ。

そう言い返したが、何故か胸の奥の方が苦しくなって、虚無感に襲われた。

その時、初めて自分がお妙のことを好きだったと、好意を寄せていたのだと気付いた。

失って初めて気づくなんて、ひどく人間らしいじゃねーの、なんて自嘲気味に笑った。

そしてその後、勿論気持ちを伝えることもなく、さらに何故か気持ちは増すばかりで今に至るのだ。

 

「そうでしたの。土方さんは何もおっしゃってなかったわ。」

「いやーちょっと冷やかしちゃったからね。怒ってんじゃね?あいつ短気だから。」

「ふふ、そうね。」

 

笑うお妙。

その笑顔の奥で、今まさにあいつの顔を思い浮かべているのであろう。

作られたものではない、とても綺麗な笑顔だった。

こんな顔をあいつはいつも見ているんだ。

俺なんかよりももっと近い距離で。

 

「おいコラ、誰が短気だって?」

 

聞きたくない声だった。

現われてほしくない野郎だった。

 

「あら土方さん。」

「おい、万事屋!こんなところで油売ってねーで働け!!」

「その言葉、そっくりそのままバッドで打ち返してやるよ。」

「俺は昼の休憩時間だ!」

「じゃー俺もー。」

「土方さん、お昼ご飯はどうされます?一応卵焼きは作っておいたのですが。」

「あ…、あぁ。弁当買ってきたから、それと一緒に食うか。」

 

卵焼きという暗黒物質の名前を聞いた瞬間、ひきつったのは多串君だけではない。

 

「あら、ここのお弁当美味しいんですよね!

ありがとうございます。私、一度ここのお弁当食べてみたかったんですよ。高かったでしょう?

銀さんもいかがですか?量が多いから分けて差し上げますよ?卵焼きもありますし。」

「ぃぃぃいいいや!!!俺は帰ります!帰らせていただきます!!

新八君が俺の分の昼飯も作ってくれてるはずだから!それを無碍にするのは心苦しいから!」

 

いくら高級弁当があったって、ダークマターも一緒についてくるのならば話は別だ。

まったくそそられない。ものすごく遠慮したい。

いくら俺だって、命をかけてまでは食いたくないからな。

 

「そうですか?じゃあ取り分けて持って帰…」

「早く帰してやれ。そもそも弁当は2つしかねーんだから。」

 

世話焼きの妙のことだ。

自分だけ美味しい弁当を味わうのではなく、万事屋の皆にも食べてほしかったのであろう。

その言葉を遮ったのは、さっきから俺を邪魔だと言わんばかりの目つきで見ている多串君の言葉だった。

 

「二人分しかないのは分かってますけど、折角だから新ちゃんや神楽ちゃんにも食べてほしくて。

ここのお弁当を食べたがっていたのは私だけじゃないんですもの。」

「…さーて。銀さんは帰りますよー。

そんな高級弁当だけならまだしも、ダークマターももれなくついてくるんだろ?

そんなもの持って帰ったら子どもたちの発育に問題が生じ…」

「なんですか?」

「ぃぃぃいいいいや!!!!何でもないです!その拳をどうか収めてください!!!」

 

そんなやりとりを黙って、だが決しておもしろくはなさそうに見ている多串君の目線に気付いてしまった。

その、所構わず発せられる殺気はどうにかならないのかね?

銀さんのポーカーフェイスを見習えっての。

 

「お弁当、本当に良いんですか?」

「いらねーっつってんだろ。気にせず二人で楽しめコノヤロー。」

「銀さん、またいらしてくださいね!糖分と一緒に待ってますから。」

「あいよー。」

 

 

***

 

 

そこには不機嫌そうに煙草を燻らせる土方の姿があった。

 

「どうしたんです?さあ、上がってくださいな。お昼にしましょう。」

「別に呼ばなくたって来るんだから、わざわざ『待ってる』だなんて言わなくてもいいだろーが。

それに俺がいれば充分だろ。」

「だって銀さんが来てくださらないと我が家の糖分が減らないんですもの。

私も少しならいいんですけど、食べ過ぎて太るのは嫌なんです。」

「じゃあ俺が食ってやる。」

「あら、甘い物はお嫌いでしょう?」

「あいつがこの家に来るくらいなら、マヨネーズを振り絞ってでも…」

「ふふ、やきもちね?」

「ふ、ふん。そんなんじゃねーよ。ほら、弁当食うぞ!」

「はい。今お茶を入れ直しますね。」

 

信じていた日々と幸せ

それが壊れる日が迫っていることに気づくものはいなかった

 

 

本当は漫画にするつもりで最初の絵を描いたのですが、根気が続かなかった。

とりあえずプロローグ的なものです。