また、この匂いに包まれたい

神楽ちゃんが友達の家に泊まりに行くと聞いていた。 

万事屋には銀さん一人だけ。

そんな状況はとても珍しかった。

仕事の前に用事があり、万事屋に寄るともうすでに神楽ちゃんは出かけた後だった。

今夜は一人で寂しいですね、なんて声をかけると銀さんが言った。

 

「そう。今日は珍しく俺一人なの。こんな機会めったにねーんだよ。だから泊まっていけよ、おねーさん。」

 

にやりといやらしく笑うその顔は、『覚悟しろよ』とでも言いたげな顔。

 

「嫌よ。そんないやらしい顔をした人のところになんか泊まりに行けないわ。汚らわしい!」

「汚らわしいって、お前ねー。そんな卑猥な行為をもう何度となく俺と…」

「何を仰っているのかしら?」

「いってェェェェェ!!!!!すいませんでしたァァァ!!!!!だから手を離して!!!!!髪を毟り取らないでェェェ!!!!」

「まったく。私は仕事があるんです。シフトが組んであるんだからそう簡単には休めないんですよ。」

「あぁ、店なら気にすんな。店長には俺から話つけてあるから。」

 

話って?

そもそもなんで銀さんと店長が話し合って、私の休みを決められるのよ。

聞けば、一度すまいるで働いて以来、店長とは軽く話せる仲らしい。

 

「今度の休みと今日の出勤日を入れ替えてくれるってよ。」

「何を勝手に決めてらっしゃるのかしら?」

「ちょちょちょちょちょ!!!!!その拳を降ろして!!!!!冷静に話し合おう!な!」

「…。だって、…嫌なんです。」

 

私はこの間の話を思い出し、俯いた。

すると銀さんの、少し真面目な声が聞こえた。

 

「…は?何がだよ。俺とするのが嫌なのか?」

「そういう訳じゃないんです。けど…ごめんなさい。ここには泊まりたくない、の。」

「何?ちゃんと掃除すれば平気だろ?案外汚くねーよ?新八がこまめに掃除してくれてるし。」

「そういう訳じゃなくて。あの…。ごめんなさい。したくないの。」

「ふざけんなよ!俺の事嫌いになったわけ?俺は今すぐにでも妙の事抱きてぇよ!?」

「ちょ、ちょっと!大きな声出さないでください!!ここの壁薄いんですから!!外に丸聞こえですよ!?」

「そんなことどうだっていいんだよ!俺に納得のいくよう説明しやがれ!!!アレか?他に男でもできたか!?」

 

徐々に冷静さを失っていく銀さん。

じりじりと追い詰められ、壁に腕を抑えつけられた。

どうしよう、このままじゃまずい。

銀さんとはしたくない、してはいけない。

でもこのままでは逃げられない。

 

「おい妙!何とか言いやがれ!!」

「わ、わかりました。」 

 

大丈夫。

この人にも羞恥の心くらいあるわ。

私は銀さんに話した。

この間の「スナックお登勢」での出来事を。 

 

 

***

 

 

つい先日、出勤前に お登勢さんに用事があった私は、開店前の「スナックお登勢」に立ち寄った。

「スナックお登勢」の扉を開けた瞬間だった。

バタバタ!と足音が天井から聞こえた。

 

「ちっ!またあいつら暴れまわってやがる!!…あら、お妙。どうしたんだい?」

「お邪魔します。あの、この足音って万事屋の…?」

「そうさ。普通の足音なら勘弁してやるが、うるさ過ぎるのは我慢ならないね。後で一言言ってやらないと。」

「え!?普通の足音まで聞こえるんですか??」

「まったく、ボロい建物だからね。特に軋む音なんかはよく聞こえて、本当困るよ。」

「そうなんですか…。」

 

志村家も木造だが、2階建てではないので、そんなこともあるのかと少し驚いてしまった。

つまり生活音が筒抜けなのね…。

するとにやりと笑うお登勢さんの顔が視界に入った。

 

「?どうしたんですか?」

「いやー。ところでお妙?銀時とはどこまでいってるんだい?」

「な!!お登勢さん、からかわないでください!!」

「真っ赤になっちゃって可愛いねー。でも気をつけな?」

「な、何をですか?」

「そういう行為は万事屋ではしない方が良いだろうよ。何しろ2階での音は全部1階に聞こえるんだからね?」

 

 

 ***

 

 

「(あんのくそババァ!!!!姿のない時でも俺の邪魔をしやがってェェェ!!!!日ごろの家賃滞納のいやがらせか!?)」

「ね?だからやめましょう?また新ちゃんがいない時に、志村家にいらっしゃってくださいな。」

「…。嫌だ。」

「な!?だから足音すら聞こえるのに、あんなことできるわけないでしょう!?」

「いやー。俄然燃えてきたね。障害があるならば、それを超えてこそ真の男だろ?」

「い、嫌ですよ?そんなくだらないプライドに付き合わされるなんて…。ね?冗談でしょう?」

 

抑えつけられている腕を振り払おうとしたのに、びくともしない。

このままではまずい。

醜態をさらすことになる。

 

「い、、、いやーーーーー!!!!」

「ほら、静かに、音を立てずに、だろ?もしかしたら生活音だけじゃなく、話し声も聞こえちゃってるかもよ?」

 

あわてて口を閉じる瞬間私が見たのは、明らかにその状況を楽しむ銀さんの顔だった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、抵抗できずに終わってしまった。

初めての万事屋での行為は、いつもと違った緊張感があり、とても気疲れした。

しばらくお登勢さんに顔向けできない。

目が覚めるともう明け方だった。

今帰ればきっと新ちゃんにも怪しまれずに済む。

初めて入った銀さんの布団はとても甘い匂いがして、寝ていたってずっと銀さんに包まれているようだった。

でも匂いが染みついている分、布団を干したりシーツを洗ったりしていないのだろう。

惜しみつつも布団からでて、襦袢で身を包む。

 

「ん…」

「あら、銀さんごめんなさい。起こしてしまいましたか?」

「なんだよ、もう帰るのか?」

「えぇ、このままいたら万事屋に出勤してくる新ちゃんに見られてしまいますわ。」

「そっか。」

「まだ早いですから、銀さんは寝てらしてください。」

「や、送ってくわ。今寝たら、もう昼まで起きられねぇし。」

「そうですか?ありがとうございます。」

 

着物を着て、髪を結わいた。

軽く化粧をし、身なりを整える。

銀さんも欠伸をしながらいつもの服を身に纏う。

 

「支度できたか?」

「はい。お待たせしました。」

 

少し肌寒い明け方の道を二人並んで歩いた。

志村家の門まで送ってもらい、別れを告げた。

門をくぐり戸を開けると弟の声が聞こえた。

 

「お帰りなさい、姉上!」

「あ、あら、新ちゃん。今日は早いのね?」

「目が覚めてしまったので。朝食の支度がもうすぐできますが、一緒に食べられますか?」

「えぇ。じゃあ一緒に食べましょう。」

「先にお風呂に入りますよね?お風呂の支度もしておきますね!お酒と煙草の匂いをさっぱり落として来てください!」

「ありがとう。じゃあ一度部屋に戻るわね。」

「はい!」

 

大きくなったとは思ったけど、やっぱりまだ姉離れできてないわね、と感じてしまった。

いや、その点では私も弟離れはできてないけど。

自室に荷物を置きに行って、ふと鏡に映った自分を見たら髪が少し乱れていたので、結い直そうと一度解いた。

いつも頭の高い位置に結ってある髪は、降ろすと結構長い。

鏡台に向かいながら結い直すその顔は、写真で見た若き日の母上に似ていて、自分でどきりとしてしまった。

瞬間。

顔にかかる髪から甘い匂いがした。

あの人の匂いだ。

あの布団にしみついた、あの人のかおり。

暫く自分の髪の香りを嗅いでいた。

とても心地よかった。 

あの人に包まれているようで、ずっとこのままでいたかった。 

 

「あれ、今日はシャワーを浴びないんですか?髪も降ろしたままで、珍しいですね。」

「えぇ。なんだか早く新ちゃんと朝ごはんが食べたくなって。新ちゃんが出掛けてからゆっくり入らせてもらうわ。」

「わかりました!じゃあ待っていてくださいね。後は運ぶだけですから。」

「ありがとう、新ちゃん。」

 

嘘をついてしまってごめんなさい。

この香りを洗い流すのがすごくもったいなかったの。

この、あの人だけの匂いを。

今度行った時に布団を干してあげようと思ったけど、やめておこう。

また、この匂いに包まれたい

 

 

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「おいババァ!」

「なんだい、銀時?」

「てめぇは居ない所でも、俺の邪魔しやがってェェ!妙に余計なこと吹きこんでんじゃねー!…と言いたいところだけど。今回は本当、ありがとうございましたァァァ!!!!!」

「な、なんだい気持ち悪いねえ。」

「いやーなんか昨日の夜はいつもと違うシチュエーションというかね?いつもと違う緊張感がお妙を煽ってさぁ。すっっっっっっっっげぇぇぇー良かったんだよ可愛かったんだよ燃えたんだよ!」

「ちっ作戦失敗か。早く家賃払いな。てめぇが楽しんだ分上乗せしておくからね!」

「上等だ!いくらでも払ってやらァ!!!!!」

 

家賃滞納の嫌がらせを企んだお登勢さん。

物音を立てないよう必死になりながらも、スリルある状況下でいつもより感じてしまうお妙さんに

「ほら、声漏れてる」 「いつもよりキツイじゃん」 「もうこんなに濡れてる」

なんて言葉攻めするSっ気全開の銀さん。 

漏れ出る声が、またいつもより色っぽかったりして←

 

 

 

すいません馬鹿な小説しか書けなくて。

いや、でも本当楽し(ry

無駄に長くなってしまいましたが、なんか内容はないです。

ただ、その人がいないところでもその人の匂いに包まれるあのどきどきとした感情を表現したかっただけです。

それだけだったはずなのに、なんでこんなに長くなるのでしょう。。

しかも表現しきれてない、この文才。

残念なことこの上ない。