いつからだろう。
妙の視線を感じられなくなったのは。
妙は姦しい女じゃなかった。
俺だってぺちゃくちゃと話すのは得意ではなかった。
だから二人でいると何も話さない時間が生まれた。
でも、そんな時間さえも俺たちにとっては心地よかった。
沈黙の息苦しさなんか一切感じない。
むしろその時間を、空気感を大切にしたいと思えるほどだった。
志村家の居間で二人で茶を啜り、ゆったりとした時を過ごす。
視線が合えば微笑みあったりする。
そんな和やかな時間が、言葉にはしないが俺は好きだった。
あの大きな瞳が細く優しい瞳になるのを見るのが好きだったんだ。
だが最近、妙はなんだか上の空だった。
俺と一緒に居ても以前のように和やかな空気にはならなかった。
常に何かを考え、思い悩んでいるようだった。
「おい、どうした?」
「何がです?」
「何か悩みでもあるのか?」
「…いえ。何でもないです。」
一度聞いては見たがそうはぐらかされた。
一瞬戸惑ったのを勿論見逃さなかったが、無理に聞き出そうとは思わない。
俺に言いたくないなら言わなくてもいいと思う。
妙はしっかりしてるし、強い女だから。
自分で何とかしようと決めたのなら、俺は見守るだけだ。
でももし妙が頼ってきたときには、全力で助けてやろうと決めている。
今日は妙も俺も仕事が休みだった。
休みが重なることは稀で。
だから気分転換も兼ねて散歩でもしようと妙を誘った。
「そう、ね。太陽の下をゆっくり歩くのもいいかもしれないわ。」
妙も俺の誘いに乗ってくれた。
妙は基本的に昼夜逆転の生活をしているから、太陽の高い時間に外に出てゆっくりできるなんて久しぶりなのだろう。
自然の光を浴びることは心身ともにとても良いことだから、きっと妙の気持ちもリフレッシュできるだろうと思った。
天気のいい中、二人で並んで歩いた。
妙は風にそよぐ木々や、野に咲く花を見るたびに表情が柔らかくなっていった。
「ありがとうございました土方さん。久しぶりにすっきりしました。やっぱり太陽の光ってとても素敵だわ。」
「あぁ。また来ような。」
「…はい。」
誘って良かったと思った。
久しぶりに妙の穏やかな顔を見ることができた。
他愛もない話もたくさんした。
妙が何に悩んでいるのかは分からないままだが、少しは妙のプラスになったようだ。
そう思えた。
最後に甘味屋で団子と茶を頼んだ。
店先には甘味屋らしい赤い大きなな唐傘の下に、長椅子が置いてある。
俺は道路側に、妙は店側に座った。
美味しいです、ととても満足そうに食す妙。
ところが。
ふと妙の動きが止まった。
何かと思い妙の方を見ると、固まったままの妙の視線とかち合った。
いや違う、俺じゃない。
道路側に座る俺のもっと後方を見ている。
何があるのかと思い、振り返ってみるとそこには。
「…万事屋?」
妙と同じく目を丸くして固まる万事屋の姿があった。
俺をすり抜ける視線
今この瞬間。
妙の瞳に映っているのは俺じゃない。
珍しく中途半端なところで終わってみる。
なんかこの話がほぼ書き終わったくらいに「前回の話でもう銀妙になっちゃってるじゃん(・ ・;)」と気付きました。
書きなおすのが面倒なので、中途半端に終わらせることにしました。
次回の「うしろめたい朝」で展開できるようにします^^;