一番危ないのはお前

もういや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喧嘩をした。

だから仕事にかこつけて浴びるほどお酒を飲んだ。

そうしたら今の状況だ。

 

 

 

 

お店を出る時点で皆から心配されていた。

立つのもやっとなのに、本当に帰れるのかと。

おりょうには、

 

「迎えに来てもらった方が良いんじゃない?」

 

と言われた。

誰に、なんて問うことすら無粋に感じる。

 

「迎えに来てくれる人なんていませんー。」

「もう、意地張っちゃって。喧嘩くらいでこんなにボロボロになるまで酔っちゃって。」

「喧嘩くらいって何よぉーー!!!!」

「あーもう。絡んで来ないで!じゃあね。本当に帰るわよ?」

「はーい。また明日ねぇー。お疲れ様ぁ。」

「はい、お疲れ。」

 

おりょうと別れた直後だった。

橋の上で少しよろけてしまった。

始めから千鳥足だった私に、平衡感覚など疾うになかった。

そして私はそのまま転び、膝を地面に着いた。

立とうとしても、腕にも足にも力が入らない。

つまり立てなくなってしまったのだ。

 

 

 

こんな明け方の時間。

おじいさんの朝の散歩にだって早すぎる。

つまり人通りが全くないのだ。

助けさえ求められない。

仕方なく地面に座り、何とはなしに川の流れを見たりした。

だって仕方ないじゃない。

どうにもこうにも動けないんだから。

もうこのままここで寝てしまおうかしら。

そんな時だった。

 

「おい酔っ払い。そんな所で吐くなよ?」

「ひ、じかたさん?」

「何してんだお前。」

「土方さんこそぉ。こんな時間までお仕事ですかぁ?」

「この隊服見ればわかるだろう。こんな時間までお仕事ですー。悪人は早寝早起きなんていう規則正しい生活は送ってくれねーんだよ。」

「ふふふー。確かにそうでしょうねぇ。大変なお仕事ですことぉ。」

「そっちこそまだ働いてたのか。大変だな。うわ、酒くせっ!酔いすぎだろ…。いつも送り迎えしてくれる銀髪ヤローはどうした?」

「だぁれ、それ?そんなマダオ私知りませんわー。糖尿寸前の男になんか興味無いのー。」

「フン、喧嘩か?」

 

話しながら近づいてくる土方さん。

何故か私の横に回り込む。

私が不思議そうな顔を向けると、土方さんはすぐに目を逸らして言い放つ。

こんなに近づいたのはもしかしたら初めてなのかもしれない。

 

「何だよ?お前立てないんだろ?面倒だが送ってやるよ!」

「あらーありがとうございますぅ。じゃあおぶってってくださいなぁ。私もう睡魔に勝てそうにないんですぅ。」

「はァァ!?おぶるゥ!!??俺がお前をォォォ!!??」

 

眠い目をこすり、土方さんの背中に移動する。

あぁこれでゆっくり眠れるわ。

 

「おいィィィ!!!!!??????」

 

 

 

***

 

 

 

何だこの状況は。

何故か俺の首には、優しく巻きつけられた女の細い腕。

背中には重さを伴った温もり。

そして鼻をくすぐるアルコールの匂い。

俺の肩には女の頭が乗っかっている。

耳元ではもう既に寝息が聞こえている。

もうこれ以上抵抗できない。

仕方ないが志村家まで送っていかなければならない。

不可抗力なのに、あまり億劫ではないのは何故なのか。

この心地よい重みをずっと感じていたいと思ってしまうのは何故なのか。

分からない感情ばかり浮かんでくるが、そのことを追求してはいけない気がして踏みとどまった。

とりあえずこの女を帰そうと思い、歩きやすいよう背負い直して、歩き始めた。

すると橋を渡り終えないうちに前方から人影が近付いてきた。

 

「…おい。」

 

怒気を含んだ声だった。

 

「あんだよ?」

「お、前…。もしかしてその背中にもたれかかってるのは、妙か…?」

「だったらどうした?」

「何してんだコノヤロー。妙は俺んだぞ?返してもらおうか?」

「返すも何も、こいつから俺の上に乗っかってきたんだぜ?」

「ちょ!いやらしい言い方しないでくれるゥゥゥ!?」

「それにお前なんか知らねぇって言ってたぞ?」

「ふ、ふん!それは一時の気の迷いってやつだ!」

「意味分かんねー。…たく。こんなところで言い合ってても仕方ねぇ。おい、妙!起きろ!」

「…はァァァァァ!!!!?????何呼び捨てにしてんのォ!!??俺の妙だよ!?ふざけんなコノヤロー!!!!!!!」

「…んっ。」

「おい、起きたか?」

「ちっ。しょーがねえ。今は妙をお前から離すことの方が優先事項だ。けどなァ次会った時にははっきりさせてやるからなァァァ!」

「いちいちうるせぇーんだよテメーは。」

「…んー…」

「…妙。妙?こっちおいで?」

「ふぁー。…え?」

「おいバカ!テメー俺の耳元で甘い声出すのやめやがれ!!!総毛立つわァァァ!!!!!」

「気色悪ぃこと言うなコノヤロォォー!!妙に言ってんだよ!!!!」

「そういうことは俺から離してからやれ、アホ!!!」

「ぎ…んさ…ん?」

「妙…。ほら、そんな奴にしがみついてないでこっち来い。な?」

「銀、さん…。」

「俺も我慢の限界だからね?いつまでもマヨにひっついてると、銀さんキレちゃうよ?」

「…や。」

「は?『嫌』だぁ!?何だとコラ!こっちから折れてやってんだろーがァァ!!!!!さっさとこっち来い、妙!!!!!」

「嫌ですぅ!!!!銀さんなんてもう嫌いだもん!!!私は土方さんに送ってもらうんですぅ!!!!!」

「ちょ、待て。首が少し苦しいぞ?」

「…ほー。へー。じゃあ俺はその腕を引きはがすまでだな。」

「やーぁ!!!!やめてよぉ!!!DVだわー!!!銀さんなんか知らないんだから!!!大っ嫌いーーー!!!!!」

 

お妙が喚き散らすたびに、俺の首に巻きつけられた腕に力が入り、締め付けてくる。

苦しいことこの上ない。

 

「お、前なァ!話を聴けコラァ!!!月詠とは何もねぇっつってんだろォォォ!!!!!」

「…パフパフ、したんでしょ?所詮男は皆巨乳の方が好きなんでしょう?」

「いや、だからその…。俺はお前のなら何でもいいんだよ!言わすなこんなこと!!!!!」

「美人で強いお方が好きなんでしょう?」

「いやそんなこと一言も言ってねーし。それにお前も充分美人で強いじゃねぇか。」

「夫婦ごっこまでしちゃって…。」

「いや、あれは身を守るための嘘で…。」

 

徐々に力が緩んできたかと思えば、いつの間にやら俺の背中の重みはなくなっていて。

お妙は銀髪と向き合うようにして立っていた。

 

「月詠さんだけじゃないわ。たまさんにだって良いカッコしちゃって…。」

「何だよ…。どっちも人助けじゃねぇか。」

「だってたまさんの中では銀さんはあんなに格好良く映ってるんだと思うと…。月詠さんだって、銀さんの前でだけ女の子になるって…。」

「周りなんて関係ねーんだよ。何言われたって俺の心は変わらない。俺が好きなのは妙だけだ。」

「本当に?」

「当り前だコノヤロー。」

「…銀さん!!」

「ん、妙。」

 

銀髪ヤローが広げた両腕の中に、お妙は迷わず飛び込んで行った。

なんだよこいつら。

言いたいことは山ほどあったが、仲直りしたばかりの男女に水を差すほど無粋なんかじゃない。

だから何も言わずにその場を離れた。

ただ、去る前に一言だけ銀髪だけに聞こえるように言ってやった。

 

『こんなになるまで放っておくなバカ』

 

あんなにボロボロになるまで想われてみたいと感じたのは、死んでも口には出せない。

それはただ女に想われたいのか、それともお妙に想われたいのか。

俺自身も分からないから。

俺に残ったのは、背中の温もりだけだった。

早く消えてほしいような、それでいて何故か消えてほしくないような。

やはりこの感情に気付いてはいけないような気がして、俺は自分の心に蓋を閉めた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「何で銀さんあんな時間にあんな所にいたんですか?」

「いやーおりょうちゃんから連絡貰ってさ…。」

「まぁ。おりょうが?」

「いや、でも本当飲み過ぎるなよ?仕事だろ?男もいっぱいいる前で。」

「あら嫉妬ですか?ふふ。銀さんにも私の苦しみが少しは分かっていただけたかしら?」

「フン。そんなんじゃねーよ!」

「素直じゃないこと。」

 

嫉妬なんて毎日してるよコノヤロー。

だから毎日送り迎えしてんだろ?

おい、わかってんの?

一番危ないのはお前

美人キャバ嬢を恋人に持つと苦労する。

 

 

 

 

 

銀妙(←)土です。

土方さんはまだ無自覚…と言い張る。 

なんだかんだでまた長くなってしまった。

29巻ネタです。

女の子と絡む銀さんを見ると、どうしてもお妙さんは今頃やきもち妬いてるんだろうなーと思ってしまう。

夫婦設定はお妙さんのものでしょー!って思いました。

月詠は嫌いじゃないのですが、この銀月具合がとても心苦しいです←

もっとお妙さんを絡ませてあげてーーー!!!!