「志村妙」は芯が通っていて、曲がったことが大嫌いな、気丈な女だったはず。
間違っても好きな男を二人作ったり、その間で揺れることなんてないはずだった。
そのはずだったのに。
私はいつからこんなに醜い女になり下がってしまったのだろう。
関係をはっきりさせようと思った。
土方さんは恋人で、私の好きな人。
でも。
銀さんは、その恋人よりももっとずっと好きになってしまった人、愛してしまった人。
そんな人ができたのならば、やはり土方さんと別れるしかなかった。
でも。
土方さんは何も悪くないのに、いつも変わらず優しい彼なのに。
あの優しい、私だけに向ける笑顔が見れなくなることが寂しい。
いつの頃からか土方さんの目をまともに見ることができなくなっていた。
いつ話を切り出そうか、どう説明すればいいのか分からなかった。
そんな折、土方さんに散歩に誘われた。
もやもや悩んでいた心は、太陽の光に浴びてなんだかとても清々しくなっていた。
はっきりしようと思った。
土方さんに嫌われたくないだなんて、私の我が儘。
はっきり私の心を告げて嫌われよう、この真っ直ぐな人に。
『また来ような』と言われて、上手く返事を返せなかった。
帰り道、きっと話をします。
中途半端なままじゃ銀さんにも土方さんにも失礼だわ。
散歩の最後に甘味屋に寄った。
これが貴方と肩を並べられる最後かと思うととても泣きたくなったけど、泣いていてはもったいない。
最後まで笑顔でいようと思った。
もしあなたが思い出してくれる「私」が、笑顔の私でありますように。
精一杯楽しんで、私も悔いを残さないように。
そんな時だった。
ふと視線を感じて道路を見ると、車道の向こう側に目を丸くして私と土方さんを見る銀さんの姿があった。
どうしよう、と思った。
銀さんにあんなことを言っておきながら、未だに土方さんと肩を寄せ合う私は、銀さんの目にどう映ってる?
一瞬にして私の体は凍りついた。
銀さんも数秒止まっていたが、何も言わずにその場を離れていった。
土方さんに名前を呼ばれて、私も気を持ち直した。
とりあえず土方さんに早く別れを告げて、銀さんを追わないといけないと思った。
今銀さんを追わないと取り返しがつかなくなる、と。
「妙?大丈夫か?」
「土方さん、ごめんなさい。私急がなきゃ…。」
「あ?なんだ、用事か?」
「はい、ごめんなさい。土方さん、今度お話したいことがあります。お時間を作っていただけますか?」
「ん?あぁ、別にいいけど。」
「本当にごめんなさい。今度必ずお話します。じゃあ、ごちそうさまでした。」
急いで銀さんの去って行った方向へ走り、横断歩道を渡った。
銀さんの着流しが見えた、と思った瞬間だった。
近くにバイクを停めていたらしく、銀さんはバイクに跨り、私に気付かないまま走って行ってしまった。
バイクのスピードには到底及ぶはずもなく。
とにかく急ごうと、万事屋へと向かった。
「え?銀ちゃん?買い物に行ったきりまだ帰ってきてないアルよ?」
万事屋のチャイムを押すと、出てきたのは銀さんではなく神楽ちゃんだった。
まだ帰ってきていないだなんて。
じゃあパチンコかしら。
まだ日も暮れていないのに、もう飲みに行ったなんてないわよね。
色々思考を巡らせながら銀さんの行方を考えた。
神楽ちゃんにお礼を言ってまた走った。
どれだけ着物が着崩れようと、構っている暇はなかった。
しかしパチンコ屋にもいつもの屋台にも飲み屋にも銀さんの姿はなかった。
気付けばあたりは真っ暗で。
ぼろぼろの自分の姿に、無性に泣きたくなった。
銀さんに伝えたいことがたくさんあった。
ごめんなさい、と。
ごめんなさい、と。
好きです、と。
近くの公衆電話から万事屋に電話をかけてみても、やっぱり銀さんは帰っていないらしい。
電話に出た神楽ちゃんにはとても心配されてしまった。
今日は新ちゃんも家に居ない日だ。
とても心細くなった。
でも、土方さんには甘えちゃいけない。
私は強い女だったはずでしょ?
銀さんが見つからないまま、家に戻った。
家に帰ったら、まず洗濯物を取り込まなきゃ。
お腹は空いていないから、お風呂に入ったらもう寝よう。
とにかく今日は疲れた。
江戸中を走り回った気分だった。
そんなことを考えながら、家の前の門を見遣ると、誰かがいた。
あのバイクの影、天パの頭。
あの影は間違いなく銀さんの姿だった。
私は最後の力を振り絞って門まで走った。
「ぎ、んさ、ん…。ど、して…?はぁ、はぁ。」
「お、前。すっげーぼろぼろじゃねーか。今まで何してたんだよ?」
「銀さんを…、銀さんを探して…。」
もう銀さんには会えないと、目なんて合わせてもらえないと思っていたのに。
家の前で私を待っていてくれた。
もう心身ともにくたくたで。
ほっとして、涙がこぼれてきた。
「俺は、一回万事屋に戻ろうとしたけど。このままじゃ妙とダメになると思って、ここに来たんだ。ずっとお前を待ってたよ。」
「銀、さん。」
「とりあえずお前、風呂に入れ。なんか作っといてやるから。」
「はい。ありがとうございます。」
思っていたより、銀さんはいつも通り話してくれて。
夕方の出来事なんて、気にも留めていないようだった。
「さっぱりしたか?」
「はい。」
「ほら、とりあえず食え。」
「ありがとうございます。いただきます。」
温かい味噌汁が身に染みた。
食後はなぜだかとても和んでしまって、話を切り出せる状況じゃなかった。
銀さんは居間でお茶を飲みながらテレビを見ていた。
私は食器を洗い終え、テレビを消して銀さんの向かいに座った。
真っ直ぐ銀さんを見て話し始めた。
「今日は土方さんとのこと、すいませんでした。」
「…。」
「まだ土方さんにちゃんと話ができていなくて本当にごめんなさい。」
「…。」
「でも、別れるから。土方さんとは別れるから、私を嫌いにならないでください。」
「…。」
「銀さん?…怒ってください。何も言われないのが一番辛い…。」
「…俺のこと大好きって、愛してるって言ったのに、他の男の隣で笑ってる妙を見て正直腹が立ったよ。」
「…ごめんなさい。」
「結局、妙は俺より土方の方が良いんだって思った。だから何も言わないで離れた。もう終わりだと思ったよ。始まってのいねぇのにな。」
「…。」
「でもさ、俺どうしたって妙が好きなんだよ。ずっと前から好きだったのに、いまさら何があったって離れられねーんだわ。妙がどれだけひどい女だったとしても、どんな奴を好きでも。妙の傍にずっと居たいんだわ。」
「銀さん…。」
「いいよ、俺。妙が土方を好きなままでも。俺のことを見てくれただけで、進歩だからさ。」
「銀さん…やだ。」
「ん?」
「もっと強く掴んでて。離さないで。俺の事だけ考えろって言ってよ。」
「いいよ、妙のペースで。俺は俺のやり方で幸せを見つけるよ。」
「銀さんのばか。優しすぎるのよ…。」
銀さんらしいな、と思って少し笑みがこぼれた。
そしていきなりキスが降ってきた。
そして耳元で囁かれる言葉。
「…ごめん。やっぱり俺、好きな女の、涙目で笑ってる顔見たら、このまま置いて帰れねーわ。」
そして後頭部に手を添えられ、優しく押し倒された。
お風呂上がりの私は、この腰に巻かれた一本の紐を解けば、すぐに肌が露わになってしまう状態で。
「いや、銀さん…。こんなところで…。」
「ごめん、止まんねー…。」
再び押し付けられた唇は、先程よりも深い口付けをする。
その間に、銀さんの左手は私の右手と繋がれて。
その間に、銀さんの右手は私の身体を弄っていた。
私は抵抗らしい抵抗なんてできなかったし、しなかった。
銀さんが求めてくれることが嬉しかった。
「ねぇ妙、ココは?気持ち良い?」
「銀、さ、ん…。やぁっ…。そんなトコ、触られたことない…。」
「え?土方君は?」
「土方さんとは…キスしかしなかったわ。」
「や、ごめん。なんか俄然燃えてきたわ。妙の部屋に行くか?それともこのままここでする?」
「部屋に、行きたいわ…。」
部屋に連れて行ってもらい、私は初めての行為を銀さんとした。
銀さんの丁寧な行為に、恥ずかしすぎて死んじゃいそうだったけど、そのおかげで快楽を知ることができた。
人に見せたことのない表情を、銀さんにたくさん見られた。
その度に『可愛いよ、妙』なんて耳元で甘く囁くのは反則だと思う。
『やばい、俺、妙に相当溺れてる』なんてあなたは言うけれど。
大丈夫よ。
私だってあなたに溺れてしまった。
土方さんにちゃんと話もできないまま、銀さんと迎えた後ろめたい朝。
銀さんは眠りの中に居ても私をずっと抱きしめてくれていた。
幸せなのに、心の底から安心できない自分がいる。
まだ問題は山積みだ。
幸せって、心から思える朝が来るのかしら。
でも私はもう、何があってもこの人を離せない。
ふぅー^^;
もうどう展開するのよ、これ!!!
銀さんが銀さんじゃない!
お妙さんがお妙さんじゃない!
性格ねじ曲がりすぎでしょ。
とりあえず、後日修正しよう^^;
そうしよう^^;