「待ってください…」
行かないで、と言いそうになる口をなんとか閉じた。
「は?お前だってそろそろ仕事だろ?俺だって今日はこれから仕事なんだよ。」
「あ、あの…そうそう、この間羊羹頂いたんですよ。いかがですか、銀さん。」
「いや、食いたいのは山々なんだけどォーお妙さん?お仕事どーすんの?志村家の家計は誰が支えてるのかな?」
「新ちゃんの雇い主のおかげで、志村家の家計は全面的に私が支えています。給料払えコノヤロー。」
「そこだけ声色変わってますけどォ!?」
「羊羹じゃなければカステラはいかがですか?あ、それともお団子がいいかしら?」
「…どーしたんだよお前。さっきたらふく和菓子の詰め合わせを食わしてもらったんだけど。」
「だって…。」
だって、貴方の向かう先が分かっているから。
行ってほしくないから。
「今日は吉原に行かれるんでしょう?」
「ああ、見回り頼まれてるからな。」
「新ちゃんと神楽ちゃんは行かないのでしょう?」
「たかが見回りの為に夜の吉原にガキ二人を連れてけねーよ。俺だって道徳観持ってるんだぜ?」
「あの方…月詠さんも一緒に見回りをするの?」
「まあ大抵はそうだなー。」
「…私も連れて行ってくださいませんか?」
「は?何で?」
「え?あ…あの、吉原に行くだけでも仕事の参考になるかと思って。社会勉強も含めて、ね?」
「いや、吉原はお前には合わねーよ。そもそも吉原とすまいるは提供するサービスの種類が違うだろ。わかってんの?お前はあんな所で学ばなくたって自分の持ってるものを大事にすれば、客は惹きついてくるだろうよ。」
「それ、褒めてるんですか?それとも子ども扱いしてるんですか?」
「褒め言葉は素直に受け取りなさい。」
そういって銀さんは私の頭をぽん、と軽く叩いて縁側から出て行ってしまった。
いつだって銀さんは私を子ども扱いして、距離を置く。
とりわけ「吉原」の話になると、早く話を終わらせようとする。
月詠さんとのことを聞かれたくないのかもしれない。
『子ども』の私が知り得ない、爛れた恋愛模様が渦巻く世界なのかもしれない。
月詠さんと銀さんの親しさは新ちゃんや神楽ちゃんから聞いて知っていた。
月詠さんを守るために銀さんがどれほどの死闘を繰り広げたのかも、
ToLOVEる的な展開があったことも。
そんな話を聞くことがすごく嫌で、でも何故嫌なのか分からなかった。
いろんな人に相談して、やっとわかったことは、これが『はつこい』というものだということ。
***
「なんじゃおぬし、最近やたらと不機嫌そうな顔で仕事に来ておるぞ?」
「いや、だから俺は積極的な女は嫌いだっていってんじゃん。吉原の女たちに、俺に声かけるなって言っておいてくれよ。」
「わかった。伝えておこう。でも原因はそれだけなのか?」
「…なんかさ、吉原に遊びに来たがってる女がいてさァ。あしらうのに困ってんだわ。」
「別に連れてくればいい。何をためらうことがある。」
「いや、男ならまだしも女だよ?ここで何を楽しむんだよ。しかも酒に煙草に薬に売春に…あいつには悪影響だ。」
「晴太だってこの街で生活しとるんじゃ。何の問題もないじゃろ?」
「いやいや、そもそも晴太がいること自体大きな問題だからね?」
「銀時、今日も一杯飲んでいってくれ。日輪が待っておる。」
「お。いーねー。ここに来ると美味い酒がただで飲み放題だからなー。あ、お前はくれぐれも飲まないように」
「…わかっておる。」
見回りの仕事もそろそろ終わりに しようかと思った時だった。
「あら銀さん。偶然ね。」
鈴の音のように可愛らしい声が聞こえてきた。
「はァァァ!?何お前!なんでこんなところにいるんだよ!?」
「ちょっと社会勉強にね。一度来てみたかったんです。銀さんが連れて行ってくれないというので、土方さんにアフターついでに連れてきてもらいました。」
「まあそういうわけだ。…ったくめんどくせぇ。」
「あら何か?」
「い、いや…何でもないです。」
最初は妙しか目に入らなかったが、よく見れば横にはいつもの真っ黒い隊服ではなく普段着姿のマヨラーがいた。
「へー。ほー。何?君達そういう仲なわけ?」
「?そういう仲ってなんですか?」
「アフターなんてする仲なんですかって聞いてんの。二人で夜道歩いて、さぞ楽しいだろうなァ?」
「アフターなんて常識でしょう?一緒にご飯食べたりするだけですよ?銀さんの方こそ良い雰囲気じゃないですか。」
「あぁ?俺とコイツが?」
「名前を呼び捨てで呼ばれちゃって、仕事終わりには一緒にお酒を飲むんですって?そもそも見回りなんて言ったって、一緒に並んで歩いてるだけじゃないですか。」
「何それ、まるで俺が全く仕事せずにタダ酒飲みに来てるような言い草じゃねーか!」
「そう見えるんだから仕方ないでしょう?まるで月詠さんに会いに来ているようなものだわ…」
たまたま今日飲みにきた土方さんを無理矢理アフターに誘って、吉原まで連れてきてもらったの。
銀さんが二度も命がけで守った街をこの目で見てみたかった。
その後も足繁く通う街がどんなところなのか知りたかった。
そして「月詠」という女性をこの目で見てみたかった。
それだけの理由ではあったが、優しい土方さんは付き合ってくれた。
けれど広いこの街から二人を見つけることはとても困難で。
30分ほど歩きまわった後に、そろそろ土方さんにも悪いと思い帰ろうとした時だった。
白とも銀とも言えるフワフワの見覚えのある髪の毛が揺れるのを見た。
すぐにその髪のもとまで駆けて行き、そして私は瞬時に後悔することとなる。
銀さんと並ぶスタイルの良い女性の姿がそこにはあったからだ。
とても絵になる二人であった。
間に入ることなんてできないような、お似合いの二人であった。
今銀さんに会ったら、汚い感情をぶつけてしまいそうで…そのまま引き返そうとした時、運悪く気付かれてしまったのだった。
「土方さんありがとうございました。もう帰りましょう。付き合っていただいたお礼に何か奢ります。」
「ん?もういいのか?じゃあラーメンでも食ってくか?」
「はいそうしましょう。では、銀さん月詠さん、これで失礼しますね。」
「おいちょっと待てこら。ラーメンなら銀さんにも奢りなさい。その前にマヨ方君はもう帰りなさい。」
「何言ってるんですか銀さん。あなたは綺麗な女性に囲まれてワカメ酒やアワビの踊り食いを堪能していくのでしょう?あぁいやらしい!」
「ちょ!そういうこと言うのやめてくれない!?仮にもお前女だろォ?」
「あ、おい、銀時!おぬし酒は飲んで行かぬのか?」
「あぁ今日はいいわ。コイツ送ってかなきゃならねーし。マヨ方君に送り狼になられても困るしね。じゃーまた来週来るわ。」
「なんで俺が送り狼になるんだよコノヤロー。」
「あん?もうお前帰れよ。そもそもなんでわざわざすまいるなんて行っちゃってんの?上司の想い人に手を出すのはまずいんじゃねーの?」
「いやいやいや!俺は手を出してねーからァ!近藤さんを裏切ることはないから!」
「ちょっと!銀さんついてこないでください!」
「何だよお前!そんなにマヨと二人っきりになりたいわけ?」
「そんなこと誰も言ってないでしょう?」
遠ざかっていく喧噪に月詠は煙管を吹かしながら天を仰いだ。
「銀時、おぬし奥深い奴かと思っておったが案外分かりやすい奴だったんだな…」
いつもやる気のない面しか見せないのに、戦いの時になると驚くほどに勇ましく頼りになる男。
そんな男だと思っていたのにまだ知らない部分があった。
あんなに焦った銀時を見るのは初めてだった。
男ってやつは。
でも何故だろう。
あんな格好悪い一面でも自分に見せてほしいと思ってしまう。
自分には見せない面を引き出すあの娘を羨む自分がいた。
キリ番5000・煉様からのリクエストで『月→銀←妙』でした。
うわー!どうしよう。。どう書きなおしてもどうしても『月→銀妙』になってしまう!!
なんとか今回は『月→銀→←妙』だと言い張る。ついでに『+土』でw
なんか本当にすいません!!!
銀妙から離れられない(>m<)
お待たせした挙句この出来…。
苦情を言ってくだされば書きなおします…。
煉様!素敵リクありがとうございました!
5000hitおめでとうございます^^