順番は守りましょう?

初めて男の人と手を繋いだ。

何を話したか、どこをどう歩いて家にたどり着いたのかなんて全く思いだせない。

だけど。

ただ一つ思いだせるものがある。

あなたの手の温度。

温かさ。

繋いだ時の、あなたの照れた横顔を、、

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

付き合ってるのか、と聞かれれば『一応』なんて返す。

何故『一応』かって?

決まっているじゃない。

付き合う前と何も変わらない関係なんだから。

態度すら変わらない。

その上恥ずかしいからという理由で、敢えて『付き合い始めました』なんて報告を周りにはしない。

聞かれたら答えるくらいで。

 

三か月たった。

触れることすらないまま、三か月。

これが大人の付き合い、というヤツなのか。

三十路近い銀さんにとっては、触れ合うなんて子どもじみた事なのだろうか。

ベタベタしたいわけでは、勿論ない。

でも何か『付き合っている』という実感が欲しかった。

 

『好き』と言われたことさえなかった。

なのにその間にも銀さんはいろんな女の人と親しくなっていて。

きっとあの一時は夢だったんだ、そう思うことにした。

 

 

 

***

 

 

 

始まりはまだまだ暑い9月のことだった。

いつも通り、玄関からではなく縁側から志村低にやってくる銀髪頭。

 

「あら、銀さんいらっしゃい」

「おーちょっと昼寝させて。家だと新八の小言とか神楽の叫び声がうるさくてゆっくりできねー。」

「惰眠を貪りにきたんですか?困った人ね。」

「この間まで頑張ってたんだから、しばらくお休みしててもいーんだよ。」

 

最近はたくさんの刀傷を刻み帰ってくることが多くなった。

その度に万事屋ではなく、3人揃って志村邸に帰って来てくれるようになったから看病はしやすくなったけど。

それでもやっぱり一番長く寝込んでいるのは銀さんだった。

何があったのかをこちらから聞くことはしないけど、その多くが女性絡みだということは新ちゃんがちらっと言っていた。

園側に寝転ぶ銀さんの服の隙間からまだ胸に巻かれたままの包帯が垣間見える。

 

「その包帯は取り換えましたか?消毒をしがてらガーゼと包帯を新しくしましょうか?」

「んー、頼むわ。自分だと背中の方がよく見えねーからなァ。」

 

そういって銀さんは起き上がり、着流しを脱ぎながら背中を私の方に見せる。

救急箱を取りに行っている間に、黒い服も脱ぎ終えていた。

始めこそ慣れない男の人の逞しい裸姿に緊張こそしたものの、最近ではそういうこともなくなった。

よくよく見ればその身体には、もうこれ以上皮膚が再生できない位の傷が幾つもあったのだ。

この傷の分、この人は何かを守り、何かを傷つけてきたのだ。

消毒をしながらそんなことを思った。

 

「なー。妙ー。」

「なんですか?」

「お前最近どうなの?」

「何がですか?」

「いやだからアレだよ。俺が仕事行ってた1か月くらいの間に、アレの方はどうなってんの?」

「だからアレってなんですか?」

「…お、男だよ。良い男でもできたか?」

「あら、そんなのできませんよ。」

「ふーん…」

「はい、じゃあ包帯巻きますね。」

 

そう言いながら銀さんの体に私の体を密着させながら、背中から胸へ、胸から背中へと包帯を巻きつけていく。

あぁ、温かい、よかったこの人がまだ生きていて。

心からそう思う。

どれだけの傷を作ってきてもいい、でも。

ただ、帰ってきて。

それだけが私の願いだった。

 

「妙?」

「はい?」

「俺と付き合うか?」

「…。何でですか?」

「…いや、俺もそろそろ落ち着こうかと。」

「そう、ですか。」

 

考えてもみなかった銀さんからの申し出。

私自身別に好きな人もいないし、銀さんの事を嫌っているわけでもないし。

 

「はい、いいですよ?」

「…」

「?」

「まじでか。」

「はい、まじです。よろしくお願いしますね。」

「お、おう…」

「…?まさかからかって適当に言ったわけじゃないですよね?」

「いやいやいや!違うから!だから俺の事を殴る必要は一切ないから!」

 

 

 

 

***

 

 

 

付き合い始める時だって、適当だった銀さんの言葉。

でもなんでだろう。

すまいるでの同僚の恋愛話を聞くたびに、何故か人恋しくなってしまう。

銀さんの隣を歩いていると、何故か手が銀さんに触れたいと願っている。

 

「ばか。」

 

ぼそっと小さい声で言った。

触れられたいと期待している気持ちに気付いて、自己嫌悪に陥った。

 

「何がバカだコラ。」

「あら、聞こえました?」

 

すまいるの帰り道。

わざわざ迎えにきて送ってくれることは、付き合い始める前もに何回かあった。

 

「ばかばか。」

「あ!二回も言ったなコノヤロー!」

 

寂しいだけなの。

人恋しいだけなの。

触れていい存在は目の前にいるのに、何故触れられないの?

銀さんから私に触れようとしない限り、私からは触れられない。

だって、なんだかこういうのは男性側からリードしてほしいものじゃない。

触れられるのを期待してるだなんて、そんな恥ずかしいこと言えない。

 

「銀さん、」

「なんだよ。」

「私と付き合いたいなんて、本当は思ったことないんでしょう?」

「……は…?」

「いいんですよ?あの時の言葉が互いを縛るだけのものになってしまったのなら、もうあの時のことは忘れますから。」

「…んで…」

「?何ですか?」

「何でいきなりそんな訳分かんないこと言いだしてんですかコノヤロー。銀さん本気で怒るぞ?」

 

そんなことを言いながらもう語気は強まっている。

いつもは離れてる目と眉が、何故か近付いていた。

歩いていた足も止まり、夜道に男女二人が向かい合う形となった。

 

「…え?何で怒って…」

「何?他に好きな男でもできたか?はっきり言えよ。」

 

じりじりと詰め寄られる。

少しずつ後ずさる私。

ついには壁にぶつかってしまった。

すると銀さんは私の両腕をつかみ、壁に押し付けた。

 

「い、た…」

「妙。」

 

そう言いながら近づいてくる、目をつぶった銀さんの顔。

反射的に飛び出す、右の拳。

 

「…ってぇー。」

「だって…だって!今まで何もしてこなかったのは銀さんの方じゃない!」

「は…?」

「付き合う前となんら変わらない日常、恋人らしいことも一切なくて…」

「ちょ、ちょっと待て!」

「?何ですか?」

「それを言いたいのは俺だって!あんな適当な告白に二つ返事で適当に了承しやがって!全く俺のこと好きじゃないくせによォ!」

「え…。」

「だから俺を好きになってもらうまでは、その適当な返事すらも利用してやろうと思ったんだよ。お前を繋いでおくためならなんだってやるよ!」

 

確かに。

返事をした時は、大した気持ちもなく了承をしてしまった気がする。

でも私はずっとこの人の帰りを待っていた。

この温もりの傍にずっと居たいと思っていた。

きっと奥底ではこの人を欲していたのだ。

 

「お前がちゃんと俺の方を向いてくれた時、ちゃんと恋人らしいことしようと思った。俺すげー我慢してたの!分かったかコノヤロー!!」

「だって銀さん『好き』なんて一言も言ってくれなかったじゃない…。」

「言えない代わりに態度で表しただろーが!何かと理由付けてはここに来てたし!週一のパフェは必ずお前と食いに行ってるだろ?確実に着実に階段は上ってたよ!」

「わ、わかりづらい…」

 

肩の力が抜けてしまった。

確かに思い返せば、言葉こそなかったものの、銀さんと顔を合わせる回数は僅かばかり増えてはいた。

 

「本当に銀さんはマダオなんですね。そんなんじゃ伝わるものも伝わらないわ。」

「…でもアレだろ?お前は俺が迫ってくるのを待ってたってことだろ?」

 

そう言いながら数分前と同じアングルで、同じ顔をした銀さんが近付いてきた。

そして数分前と同じく鉄拳を制裁する。

 

「おねーさーん。言ってることとやってることが矛盾してるんですけどォー。」

 

だって、いきなりキスだなんて緊張する。

順番は守りましょう?

キスは手を繋いだ後に、ね?

 

 

***

 

 

「キスよりも手を繋ぐ方が恥ずかしいんですけど…何この原理…うわー。」

「あらそれは銀さんが爛れた恋愛しかしてない証拠だわ。」

「ふん。……。妙。」

「なんですか?」

「俺のこと好きになったの?いつから?」

「好きでしたよ。ずっとずっと前から。」

「(ちっ…その笑顔を向けられたら嘘かどうかなんて、どうでもよくなる。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

リアルにいろいろあったから?

なんだか書きたい衝動に駆られてがーっと書いたらまた長い。。

もしかしたら話分けられるかな?

編集はまた後日^^

ただいま午前2:25!!

まずいよ普通に今日仕事だよ!!!!!!!!

お風呂にも入ってないーーーー!!!